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東京電力株式会社の原子力損害賠償紛争審査会指針に反する賠償方針の撤回を求める会長声明

東京電力株式会社の原子力損害賠償紛争審査会指針に反する賠償方針の撤回を求める会長声明

 

1 東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)は,東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)の損害賠償に関して,被害者が東京電力の従業員である場合には,被害者が避難区域等の外に「転居」した時点で,避難慰謝料の賠償等を打ち切るという対応をしていることが明らかとなっている。当会は,2014(平成26)年1月31日付会長声明において,かかる東京電力の対応について厳しく批判してきたところである。この点に関し,毎日新聞の同年2月23日付報道により,下記事実が明らかになった。

(1)東京電力は,本件事故の被害者に対する損害賠償に関して,2012(平成24)年12月に,「本賠償の終期の考え方」と題する独自の内部基準(以下「本件内部基準」という。)を作成した。

本件内部基準では,避難指示等対象地域に居住していた避難者について,事故前の居住形態ごとに⑴持ち家⑵借家⑶実家に同居などの分類を行い,⑵借家や⑶実家に同居の場合,避難者が転居した時点で,避難に伴う精神的苦痛や避難・帰宅にかかわる賠償を打ち切るものとされていた。

(2)東京電力は,2013(平成25)年1月に,経済産業省資源エネルギー庁原子力損害対応室を訪問し,本件内部基準を説明した。

同室は,毎日新聞の取材に対し「避難生活を余儀なくされた期間の考え方を整理したもので,内容に納得している」旨の回答をし,東京電力広報部も,毎日新聞の取材に対し「社員か否かで賠償の考え方を変えていない。事故前の居住実態や事故後の居住状況などを確認し,適切に対応している。(一般の被災者でも)事実関係に誤りがあれば精算(返還)をお願いする」旨,回答した。

2 上記東京電力及び資源エネルギー庁の対応は,原子力損害賠償紛争審査会(以下「原賠審」という。)の示した各種指針類に反し,被害者救済をないがしろにする,極めて不当なものである。

原賠審が示したいわゆる中間指針においては,避難指示等対象地域から避難した被害者に対しては,避難にかかる精神的苦痛に対する慰謝料として月10万円を支払うべきものとされており,事故前の居住形態が持ち家か借家かなどにより区別されていない。また,原賠審がその後に示したいわゆる中間指針第二次追補は,避難指示区域等の見直しや再編に伴う避難費用や避難慰謝料の終期について述べたものであるが,避難指示が解除された場合でも,解除の時点から相当期間が経過した時点を賠償の終期とすることとされている。

本件内部基準は,これらの原賠審の指針に反することが明らかであり,原賠審の指針に基づいて賠償を行うとしてきた国会答弁等にも反するものである。また,資源エネルギー庁原子力損害対応室が,こうした東京電力の方針を,仮に非公式であれ黙認することは,原子力損害賠償法の趣旨に背く態度をとることにほかならず,到底許されるものではない。

3 そもそも,避難指示区域等に居住していた被害者は,本件事故とこれに伴う大量の放射性物質の放出を原因として,政府等の指示に基づいて避難したことにより,突如,強制的に生活の基盤を奪われたものであり,その被害は,事故以前の居住形態やその後の転居の有無・時期によって左右されるものではない。また,東京電力が,本件内部基準を東京電力の従業員である被害者だけでなく,被害者全般に対して適用すれば,多くの被害者が,すでに受領した賠償金について,転居等の時点に遡って返還を求められることとなる可能性があり,被害者の生活再建にとって極めて深刻な影響を及ぼす。上記東京電力及び資源エネルギー庁の対応は,被害者救済をないがしろにするものとの批判を免れない。

4 上記のように,東京電力は,自らの従業員が転勤等により対象区域外に「転居」した場合,その時点で避難慰謝料の賠償を打ち切る対応をすでにとっている。そして,東京電力は,従業員らが申し立てた原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解仲介手続において,「転居」後も避難慰謝料を支払うべきとの和解案が提示されても,これを受諾しないという極めて異常かつ不当な対応を続けているところ,これも本件内部基準が存在するためというべきである。

この問題に関し,下村博文文部科学大臣は,2014年(平成26年)2月26日の衆議院予算委員会分科会で「転居の事実だけを持って賠償を打ち切らず,原賠審の指針の趣旨に沿って,個別具体的な事情に十分配慮するよう指導していく」旨述べている(同日付毎日新聞配信記事)ところであるが,あらためて,当会は,

①   東京電力に対し,本件内部基準を直ちに撤回し,東京電力の従業員を含む全ての被害者に対し,従前の居住形態の如何にかかわらず,原賠審の指針類に反しない賠償を行うこと

②   資源エネルギー庁に対し,東京電力から公布された内部文書及び東京電力からなされた説明等の経緯について公表すること。また,東京電力に対して,かかる方針を撤回し,直ちに原賠審の指針類に基づく賠償を行うよう指導すること

を求める。

 

2014(平成26)年3月24日

福島県弁護士会会長 小池 達哉

【執行先】

東京電力,経済産業省資源エネルギー庁

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