災害ケースマネジメントの手法による原発被害者支援の継続を求める決議
【決議本文】
東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)から15年を迎える。
原発事故による被害は現在も継続しており、被害者一人ひとりが抱える生活上の困難や課題は、極めて多様かつ深刻であって、金銭賠償や一時的な施策のみでは解決し得ない内容も多くなっている。原発事故の被害者の中には、自立や生活再建が難しい方もおり、福祉的観点から、個別的かつ継続的な支援が必要な時期となっている。
当会は、これまで原発被害者からの損害賠償の相談のみならず、生活再建に関する相談等に取り組む中で、原発被害の甚大性、継続性、多様性など、原発事故の被害の根深さを目の当たりにしてきた。このような経験に照らしても、現行の支援制度だけでは、自立や生活再建が難しい被害者もおり、原発事故15年を迎える今こそ、被害者一人ひとりに寄り添った支援体制の充実が必要な時期に来ている。
よって、当会は国に対し、次の事項を強く求める。
1 被災者一人ひとりが、現在の生活状況及び課題について個別に相談でき、必要に応じて専門的知見を有する関係者につなげることにより、被災者の自立や生活再建が進むよう支援する「災害ケースマネジメント」の仕組みを、原発被害者にも適用・運用し、支援体制を整備・推進すること。
2 前項の災害ケースマネジメントを実効性あるものとするため、国、自治体、専門職団体、民間支援団体等が日頃から連携し、必要な人員を確保するとともに、長期的かつ継続的な支援が可能となる十分な予算を確保すること。
【提案理由】
1 原発事故から15年を経た被災者の現状と課題
今年、東日本大震災及び原発事故から15年を迎える。
避難指示区域は徐々に縮小し、各種施設やインフラの整備も進められており、金銭賠償が被害者の生活再建の一部につながったことは否定できない。しかし、本当の目標は、被害者の自立であり、元通りの生活を取り戻すことであるが、避難指示区域の地域再生が進んでいるとは、到底言い難い状況が続いている。
避難指示が解除された地域においても、雇用、医療、教育、生活インフラの不足や放射線への不安等により、特に若年層や子供を持つ家庭を中心に、帰還は進んでいない。帰還者の多くは高齢者であるのが現実であり、地域の急速な高齢化、高齢者の孤立、介護ニーズの増大、コミュニティの弱体化などが、新たに深刻な問題となっている。
一方、避難先で生活を継続する被害者においても、慣れない環境への適応の困難さや、賠償格差等を背景とした軋轢、分断、孤立等が生じている。
このように、帰還しても、避難先に定住しても、決して元の生活を回復することはできず、平穏な日常生活を取り戻したとは、到底言えない状況が続いている。
加えて、長期避難に伴う心身への負担やストレスは、極めて大きい。福島県における震災関連死の多さは、原発事故による強制避難が、被災者・被害者の生命及び健康に重大な影響を及ぼしたことを、明確に示している。
さらに、原発事故の影響は、避難指示区域に限られず、自主的避難等対象区域も含め、福島県全体に及んでおり、風評被害、産業への影響、将来に対する不安など、多くの課題が、現在も解消されていない。
2 金銭賠償の限界と被害者支援の新たな枠組みの必要性
金銭賠償は、被害者の生活再建の一部を支えてきたものの、それのみをもって被害者が事故前の生活を回復し、真に自立することは困難である。
当会が取り組んできた損害賠償請求や法律相談の実務からも、被害の内容は、精神的苦痛、生業の喪失、人間関係や地域との断絶など多岐にわたり、金銭による補填では到底回復し得ない被害が多数存在することが明らかとなっている。一律的な金銭賠償をもって原発被害が終息したとすることは、被害者の人権回復及び生活再建の観点から、著しく不十分であり、不当である。被害者が事故前に当たり前に営んでいた生活を取り戻すためには、被害者一人ひとりの状況に応じた、継続的かつ包括的な支援が不可欠である。
3 災害ケースマネジメントの原発被害者への適用
被災者一人ひとりの課題に応じた生活再建の計画を立て、情報提供や人的支援など、さまざまな支援制度を組み合わせ、個別的な救済をする取り組みを「災害ケースマネジメント」と言う。すなわち、被災者に対して継続的に相談・訪問等を行い、生活上の困難を把握し、官民が連携して、必要な支援につなげていく仕組みである。
近年、この「災害ケースマネジメント」が、被災者を救済する仕組みとして注目されている。国は、防災基本計画において、この災害ケースマネジメントの整備促進を明記するようになった。しかし、原発被害者への災害ケースマネジメントの適用は、未だ十分とは言えない。
原発事故も明らかに災害の一つであり、事故後15年を経て、一人ひとりの被害者の状況の把握、さまざまな支援施策を組み合わせた支援計画の立案、計画に沿った支援の実施、金銭面だけでなく情報提供や寄り添いなどが、是非とも必要な段階に来ている。
長期かつ複合的な被害を受けてきた原発被害者にこそ、災害ケースマネジメントを適用すべきである。
4 官民連携及び予算確保の必要性
災害ケースマネジメントを実効性あるものとするためには、行政のみならず、弁護士をはじめとする専門職、NPO、支援団体等が連携し、被害者を中心に据えた支援体制を構築することが不可欠である。
また、長期的な支援を持続可能なものとするためには、専門的支援に正当な対価が支払われる制度設計と、十分な予算措置も必要である。
したがって、当会は、原発被害者の人権擁護及び生活再建の実現のため、上記のとおり、国が責任をもって災害ケースマネジメントの体制整備及び予算確保を行うことを、強く求める次第である。
以上