福島県弁護士会公式ホームページ

会長声明 等

ホーム > Topics > 会長声明 等 > 生活保護基準の引下げと受給抑制に繋がる政策に反対する会長声明

生活保護基準の引下げと受給抑制に繋がる政策に反対する会長声明

1. 本年8月10日,社会保障制度改革推進法が成立した。同法附則2条は,生活保護制度について「給付水準の適正化」を含む見直しをすることを明記している。これを受けて,政府は,同月17日に「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定した。この概算要求基準では,社会保障制度及び社会保障予算について「生活保護の見直しをはじめとして合理化・効率化に最大限取り組み,その結果を平成25年度予算に反映させるなど極力圧縮に努める」などとしている。

一方,生活保護基準については,昨年4月以降,厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会生活保護基準部会において検討が続けられているが,厚生労働省が本年7月5日に発表した「『生活支援戦略』中間まとめ」においては,「(生活保護基準について)一般低所得世帯の消費実態との比較検証を行い,今年度末を目途に結論を取りまとめる」ものとしている。

これらの事実からして,来年度予算案編成において,政府が生活保護基準の引下げを行おうとしていることは明らかである。

2. さらに,今年9月28日に,社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会に資料提出された「『生活支援戦略』に関する主な論点(案)」では,「不正・不適切受給対策」などとして,「扶養が困難と回答した扶養義務者への理由の説明義務」を課すこととし,「福祉事務所が受給者の就労状況や保護費の支出状況を調査する権限を強化する」などの方針を打ち出している。これらの政策の主たる目的が「不正・不適切な受給」を防ぐことにあり,それ自体は正当なものであるとしても,運用によっては,結果として,真に受給が必要な者に対する受給の抑制に繋がる危険を孕む。

3. このような,生活保護給付水準の引下げや受給抑制に繋がる政策は,生活保護受給者が200万人を突破し,生活保護費が3兆円超と過去最高水準に達したために,生活保護費の支出を抑制するためのものと思われる。しかし,生活保護受給者の増大の真の原因は,低賃金・不安定雇用の拡大による「ワーキング・プア」の増加,雇用保険や年金等の社会保障制度の脆弱化にある。生活保護を利用する以前の,雇用や社会保障などの各種セーフティネットが有効に機能していれば,「最後のセーフティネット」と言われる生活保護を受給する必要はない。現実には,その手前のセーフティネットが有効に機能していないために,生活保護受給者が増大しているのである。こうした状況を放置したまま,生活保護基準の引下げや受給抑制に繋がる政策を強行しようとすることは許されない。

4. 生活保護基準は,憲法25条によって国民の権利として保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であり,生存権保障の水準を決定する極めて重要な基準である。同時に,生活保護基準は,最低賃金,年金,地方税の非課税基準,介護保険の保険料等の減額基準,就学援助の給付対象基準など,福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも事実上連動している。

殊に,生活保護基準が下がることにより,最低賃金の引き上げ目標が下がることになり,最低賃金で働く労働者の生活に重大な影響を与える。

5. 厚生労働省は,低所得世帯の消費支出との比較検証を理由に,生活保護基準の引下げを図ろうとしているが,そもそも,2010(平成22)年4月9日に厚生労働省が公表した「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」によれば,生活保護の捕捉率(生活保護の利用資格のある者のうち,現に利用している者の割合)は,2~3割と推計されている。こうした現状の下では,低所得世帯の支出が生活保護基準以下になるのは当然である。これを根拠に,生活保護基準を引き下げることが許されるとすれば,生存権保障水準が際限なく引き下げられることにもなりかねず,合理性がないことは明らかである。

6. 本年2月下旬,南相馬市において,69歳の母親と47歳の息子が凍死体で発見されるという「孤立死」が生じたことにつき,南相馬市は,この長男が,震災後の昨年5月ころ生活保護の相談をしていたが,「手持金・義援金等の資産活用が見込まれることから申請に至らなかったもの」などと説明している。仮にも,このような孤立死事案の背景に自治体財政を理由として必要な生活保護が受けられないという事態があってはならない。

7. 生活保護制度は,生活困窮者で他の制度では救済できないすべての国民に対して,国がその程度に応じて必要な保護を行い,最低限度の生活を保障するもので,平成11年版厚生白書自身が述べているように,国民の「最後のよりどころ」であり,「最後のセーフティネット」である。この最後のよりどころが,財政的な理由でいとも簡単に支給基準を引き下げられたり,行政側の運用により支給を抑制されることがあってはならない。

8. よって,当会は,生活保護基準の引下げや受給抑制に繋がる政策の強化に,強く反対するものである。

2012年(平成24年)12月21日
福島県弁護士会
会長 本田 哲夫

カテゴリー

最近の投稿

月別投稿一覧