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死刑制度の廃止に関する決議

死刑制度の廃止に関する決議

当会は、政府及び国会に対し、
1 死刑制度を廃止すること
2 死刑制度の廃止までの間、死刑の執行を停止すること
を求める。

決議の理由
1 はじめに
死刑制度の廃止が国際的潮流であるにもかかわらず、日本においては刑罰として死刑が存置され、毎年のように死刑が執行されている。
死刑は、正当防衛等で正当化できる事情がない状況で行われる国家による殺人(生命の剥奪)であり、重大な人権侵害であるとともに、「人を殺してはいけない」という原則の例外中の例外である。
また、刑事裁判においては誤判が避けられず、えん罪による間違った死刑が執行されてしまった場合には、取り返しがつかない人権侵害となる。
このような究極の人権侵害である死刑は、刑法に規定されている法律制度である。
基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、法律制度の改善に努力しなければならない弁護士及び上記弁護士の使命や努力目標を達成するために存在する弁護士会としては、死刑制度についての検討を深め、この問題について積極的に取り組む責務があると言うべきである。

2 誤判・えん罪の可能性を排除できないこと
裁判員裁判をも含む全ての刑事裁判において、どれだけ科学捜査の精度が向上しようとも、最終的な判断を下すのは人である以上、何かしらの間違いが起こる可能性をゼロにすることはできない。そして、その間違った判断に基づいて死刑が執行されることは万に一つもあってはならない。
この点、誤判やえん罪の可能性がまずあり得ない事件、具体的には現行犯で逮捕された事件であったり、証拠上犯罪を犯したことが明らかであり、被告人が認めているような場合には、誤判やえん罪の可能性がないから、死刑制度を廃止する理由にはならないという主張がある。
確かに、現行犯や証拠上犯人であることが明らかな事件においては、犯人性についての誤判は起こらず、えん罪の可能性は極めて低いと考えられる。
しかしながら、犯人性に疑いが無かったとしても、責任能力や量刑に関する誤判や、共犯事件の場合の犯罪に対する関与度合いの認定についての誤判が起きる可能性は否定できない。したがって、犯人性について誤判が起こらないからといって、本来死刑を科すべきでない事件に死刑が科される可能性まで否定することはできない。
日本においても、死刑判決が確定した4つの事件(免田事件・財田川事件・松山事件・島田事件)において再審無罪が確定しているだけでなく、裁判員裁判における死刑判決が控訴審において量刑不当により破棄・減刑された事件が7例報告され、いずれも無期懲役判決が確定している。
また、袴田巌氏が犯人とされたいわゆる袴田事件においては、第一審において死刑が言い渡された後、最高裁で判決が確定し、その後、第1次再審請求は最高裁が特別抗告を棄却して終了し、2008年4月に申し立てられた第2次再審請求においては、静岡地方裁判所が再審開始と死刑の執行停止を決定した。その後、検察官による即時抗告、弁護側の特別抗告の後、最高裁は高裁決定を取り消しして差し戻しをし、2023年3月13日、東京高裁は2014年の静岡地裁の再審開始決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却する決定をしている。世界で最も長く勾留された死刑囚として記録に残るほどの長期間、勾留され続けていたことも問題であるが、人が人を裁くこと、過去に起きた事実を現時点において認定することの困難さが如実に表れていると言わざるを得ない。
以上、人が人を裁くという刑事司法においては、誤判・えん罪の可能性を完全に排除することはできず、特に死刑の場合は、誤判・えん罪による刑が執行されてしまうと、取り返しの付かない結果を招くことになる点に強く留意すべきである。

3 死刑廃止の国際的潮流
自由権規約6条は、「すべての人間は、生命に関する固有の権利を有する。」と規定しており、さらに、死刑廃止条約(死刑廃止を目指す市民的及び政治的権利に関する国際規約第2選択議定書)が採択され、発効している(日本は未批准)。
2022(令和4)年の時点で、すべての犯罪に対して死刑を廃止した国は112か国、通常犯罪のみ廃止した国は9か国、事実上の廃止をした国は23か国であり、法律上・事実上の死刑廃止国は144か国にのぼり、死刑存置国は55か国で、そのうち同年に死刑を執行したのは日本を含む20か国である。
G7広島サミット2023のメンバーのうち死刑存置国は米国と日本のみである。米国は、23州が死刑を廃止し、法的に死刑制度を維持する27州のうち14州について過去10年間死刑執行がない。
2022(令和4)年12月、国連総会は、死刑廃止を視野に入れた死刑執行停止を求める決議案を賛成125か国、日本を含む反対37か国、棄権22か国で可決された。同様の決議は今回で9度目である。また、国連の自由権規約委員会、拷問禁止委員会及び人権理事会から、日本は死刑執行の停止及び廃止を検討すべきであると繰り返し勧告を受けている。
このように、死刑制度の廃止は国際的な潮流となっている。
なお、日本が犯罪人引渡し条約を締結している国は、米国と韓国の2か国のみであり、犯罪のグローバル化が進む中で適切な科刑の実現の支障となっている。これは、日本の死刑制度の存在が、死刑廃止国との条約締結の障害になっているためとの指摘がなされているところである。

4 現代においては憲法上重大な疑義が生じていること
日本においては、昭和23年に出された最高裁判決(最大判昭和23年3月12日刑集2巻3号191頁)が示した、死刑が基本的人権を保障する憲法に違反しないとの判断が70年以上にわたり踏襲されてきた。
しかし、生命刑である死刑は、国家が、有罪とされた被告人を、市民社会から引き離す・隔離する、というのみならず、人権の享有主体である個人から、他の人権を享有するための大前提として存在する生命を、「殺す」という方法によってこれを達成するものである。国家が、ある特定の個人を「生きていてはならない人間」として「殺す」ことによって人権享有の主体そのものを消滅させるということは、いかに刑罰権の行使の一態様であったとしても、個人の尊重を規定する憲法13条、及び、その背景に存在する、国家の存立意義を個人の人権の保障に求める人権思想及び近代立憲主義とは究極的には相容れないものである。
また、前記最高裁判決は、死刑制度自体は憲法36条にいう残虐な刑罰には該当しないとし、ただ執行方法等が「その時代と環境とにおいて」「人道上の見地から」一般的に残虐性を有するものと認められる場合には、残虐な刑罰に該当するとしているが、これは戦後間もない昭和23年当時の時代と環境において、また国際的にも、当時は死刑存置国が多数を占め、また絞首刑を定める国も多数存在した時代における判断である。この判決から70年以上を経た現代において、国家が個人の生命を、しかも首を絞めるという方法によって奪う、すなわち「殺す」ことが、なお残虐でないと言い続けることは不可能である。前記最高裁判決は「憲法は現代多数の文化国家におけると同様に、刑罰として死刑の存置を想定し、これを是認したものと解すべきである」として、死刑合憲論を導いているが、そうであれば、現代において、大多数かつ先進国の大半が、執行方法としての絞首刑はもちろん、刑罰としての死刑それ自体を廃止していることからすれば、死刑制度は、もはや憲法36条で禁じられた残虐な刑罰と言わざるを得ない。
憲法学説においても、かつては、死刑が憲法に違反するとの立場は有力ではないとされてきたが、現代においては死刑違憲論を積極的に主張するものも少なくない。前記最高裁判決を踏襲して維持されてきた死刑合憲論は、現代の環境を前提にした見直しが迫られているものである。

5 一般予防効果が実証されていないこと
凶悪犯罪を抑止するためには、死刑制度を存置すべきであるとの意見がある。
しかし、実際に死刑を廃止した国で、凶悪犯罪が増加したという事実は報告されておらず、死刑制度に犯罪抑止効果があることは実証されていない。むしろ、死刑の犯罪抑止効果に疑問を呈する研究結果も多くある(たとえば、米国では、死刑存置地域よりも死刑廃止地域のほうが殺人事件の発生率が著しく高いとのデータがある)。
もちろん、一般予防効果が明らかではないからと言って、刑罰一般を廃止せよという結論にならないことは当然であるが、死刑はマイナス面が他の刑罰とは比較にならないほど重大であるから、一般予防効果が明らかでない現状において漫然と存置していてよいか否か、厳密に検討する必要がある。

6 死刑制度を廃止した場合の代替刑について
死刑が廃止された場合に、現行法上無期懲役刑が最高刑ということになるが、無期懲役刑では制度上10年を経過した後に仮釈放が可能となる。しかし、これまでは死刑が相当とされてきた事案において、無期懲役刑を最高刑とすることは不十分であり、死刑に代わる最高刑として、仮釈放のない終身刑制度を導入すべきである。

7 世論と死刑
内閣府の世論調査(令和元年度)によれば、「死刑は廃止すべきである」と答えた者の割合は9.0%、「死刑もやむを得ない」と答えた者の割合は80.8%、「わからない・一概に言えない」と答えた者の割合は10.2%となっており、死刑存置が多数を占めるように見える。一方、「死刑もやむを得ない」と回答した者のうち、「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と回答している者は39.9%に上っており、将来的な廃止に賛成する意見も相当数ある。また、終身刑を導入した場合の死刑制度の存廃の質問に対しては、「死刑を廃止する方がよい」と答えた者の割合が35.1%、「死刑を廃止しない方がよい」と答えた者の割合が52.0%となっており、死刑を廃止する方がよいと答えた者の割合が増加する。
したがって、現在の世論調査の結果をもって国民の多数が死刑制度に賛成していると単純に結論付けることはできない。
そもそも、日本においては、刑罰論、死刑執行方法、確定死刑囚の処遇、犯罪認知件数の推移など、死刑制度の賛否を判断するための基礎的な情報が国民に提供されていない。これらの情報提供を適切に行うことによって議論が高まれば、世論が死刑廃止に向かうことは十分ありうる。また、死刑が究極的な人権問題に関わるものであることから、死刑存置を正当化する根拠としての世論の役割には一定の限界があることにも留意するべきである。

8 犯罪被害者等から見た死刑制度
犯罪により害を被った者及びその家族又は遺族(以下、「犯罪被害者等」という。)のためには、死刑制度を存置すべきであるという意見がある。
たしかに、犯罪被害者等が、峻烈な応報感情に基づき、加害者に対し、法定刑に死刑があれば死刑を望むという心情を抱くことは想像に難くない。
しかし、絶対的応報刑の立場を採用しておらず、責任主義という大原則に支配されている刑事裁判において、死刑が言い渡されるかどうかは、犯行の罪質、動機、態様、結果の重大性、犯罪被害者等の被害感情、社会的影響、加害者の年齢や前科、犯行後の情状等の事情により総合的に判断されるものであり、犯罪被害者等が死刑を望んだとしても死刑が言い渡されない事案が圧倒的に多数である。
そもそも、社会が「犯罪被害者等の感情=応報感情」とバイアスをかけることにより、犯罪被害者等の感情は事件ごとに極めて複雑で多種多様であるという現実を看過することとなる。
犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するものであり(犯罪被害者等基本法第3条第1項)、犯罪被害者等の被害の回復のためには、被害の状況及び原因、犯罪被害者が置かれている状況その他の事情に応じて適切に講ぜられる必要がある(同条第2項)。
犯罪被害者等の権利利益の保護は、犯罪被害者等の個別具体的な事情に応じた経済的・精神的・心理的な支援制度の実現に向けた社会全体の不断の努力によって図られるべきものであって、死刑制度の存置によって図られるものではない。

9 まとめ
よって、当会は、政府及び国会に対し、死刑制度を廃止すること、死刑制度の廃止までの間、死刑の執行を停止することをそれぞれ求める。
以上

2024年(令和6年)2月22日

福島県弁護士会

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