被疑者・被告人の人権を擁護するため、オンライン接見の早期導入を求める決議
決議本文
当会は、被疑者・被告人の人権を擁護するため、国に対し、弁護人・弁護人となろうとする者が、被疑者・被告人とのオンライン接見を早期に実現できるようにするための法整備を進めることを求める。
提案理由
1 刑事手続きにおける情報通信技術の活用に関する立法状況
第217回国会において、情報通信技術を活用し刑事手続きの効率化を推進するための刑事訴訟法などの改正案が可決された(以下「改正法」という。)。改正法には、電磁的記録による令状の発付・執行等に関する規定の整備、刑事施設・留置施設(以下「刑事施設等」という。)との間における映像と音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続きを行うための規定の整備及び映像と音声の送受信による裁判所の手続きへの出席・出頭を可能とする制度の創設等が盛り込まれた一方、刑事施設等にいる被疑者等と弁護人等との間の映像及び音声の送受信により行う接見(以下「オンライン接見」という。)について取り上げられなかったことは遺憾である。
2 オンライン接見は充実した接見交通権の実現に不可欠である
被疑者等にとって弁護人等との接見交通権は、憲法上保障された弁護人依頼権(憲法34条前段)に由来する重要な権利である。
弁護人等による接見は、身体を拘束された被疑者等にとって、自身の正当な権利行使の手助けをしたり、外部との交通を遮断された被疑者等の孤独や不安を解消したりするために重要な役割を果たすものであり、なかでも、逮捕直後の初回接見は、身体を拘束された被疑者によって、弁護人等の助言を得る最初の機会であり、憲法上の保障の出発点を成すものであるから、速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である(平成12年6月13日最高裁判決「内田国賠(第2次)事件」)。
また、公判準備及び公判の段階でも、身体を拘束されている被告人が証拠を検討し、防御を尽くすために、弁護人との充実した接見の機会が保障されなければならない。
弁護人等は、被疑者等の権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努め、そして、身体を拘束された被疑者等については必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努めるものとされており(弁護士職務基本規程46条、同47条)、我々は刑事弁護人としての職責を果たすべきことは言うまでもない。
もっとも、弁護人等が刑事施設等を訪問しない限り接見をすることができない現状において、被疑者等の勾留場所と弁護人等の法律事務所との間に距離がある場合、被疑者等は迅速かつ充実した弁護人等の援助を受けることに支障が生ずる可能性は否定できない。
特に福島県は、遠隔地に刑事施設等がある地域も多く、それに加え、冬期になれば積雪や吹雪等によって移動自体が困難となり、接見交通に重大な支障をきたすおそれが大きい。
地理的条件を問題としないオンライン接見は、こうした支障を克服し、弁護人等による機動的な接見を実現する制度として極めて重要な意義を有するものである。
情報通信技術を用いることによる刑事手続きの効率化が現に立法化されつつある現在においては、弁護人等と被疑者等との間の接見交通についても同様の情報通信技術を用いて効率化を図ることが可能かつ現実的である。
したがって、対面による速やかな接見が重要であることは言うまでもないが、被疑者等の弁護人依頼権の保障を充実させるため、オンライン接見は、権利性を有する法律上の制度として整備され、国家予算を投じて運営されなければならない。
3 オンライン接見の実現に向けた課題
オンライン接見の具体的な方法については、弁護人等が最寄りの刑事施設等に赴き、当該刑事施設等に設置された端末を用いて、被疑者等が所在する刑事施設等に設置された端末にアクセスし、被疑者等と音声及び映像を送受信する方法(以下「アクセスポイント方式」という。)にて接見を行う方法が現実的であり、当会も、アクセスポイント方式によるオンライン接見の実現を求めるものである。
これに対し、一部の刑事施設等においては、現在、電話を用いた外部交通が行われており、この運用を、テレビ電話を用いて外部交通ができるようにする方法に拡大していく方向での議論がある。
しかしながら、当該方式については、当会が求めている権利としてのオンライン接見とは異なり、あくまで運用に過ぎない上、刑事施設等の職員が聴取し得る状況で行われており、弁護人等と被疑者等との間の会話について秘密が保障されているものではない。
被疑者等が適切に防御権を行使し、裁判に向けて充実した準備を行うためには、弁護人等と被疑者等とが、打合せ内容を他者に見聞きされることのない環境において打合せを行うことが欠かせない。
したがって、現在一部の刑事施設等で行われている電話等を用いた外部交通の拡大を行うことでは全く不十分なのであって、オンライン接見の導入にあたっては、接見の秘密が制度として保障されなければならない。
このようなオンライン接見の実現に対しては、設備や人員を配置するための経済的負担を指摘する意見もある。
しかしながら、改正法においては、令状をタブレット端末で示す方法のほか、検察庁にいる検察官が、刑事施設等にいる被疑者からオンラインで弁解録取を行う方法や、裁判所にいる裁判官が、同じく刑事施設等にいる被疑者に対しオンラインで勾留質問を行うことができるものとされている。
このように、新たな設備の導入は、情報通信技術を用いた刑事手続き効率化全般に必要なのであり、オンライン接見についてのみことさら経済的負担を問題視することは不合理である。
オンライン接見については、刑事訴訟法第39条1項に規定される権利と位置付けることにより、設備や人員を配置するための十分な予算措置を講じることも可能となるし、仮に全国一斉に導入することが困難であれば、弁護人等の事務所所在地と被疑者等の所在する刑事施設等の距離が離れている地域から導入し、順次、人員の拡大を図ることも考えられる。
したがって、設備や人員を配置するための経済的負担の問題は、オンライン接見の導入を否定する理由とはならない。
4 まとめ
以上より、当会は、国に対し、弁護人等と被疑者等との間におけるオンライン接見が早期に実現できるようにするための法整備を進めることを求めるものである。
以上
2025年(令和7年)5月30日
福島県弁護士会