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二本松市の認可保育所における虐待事件の調査報告書を受けての会長声明

二本松市の認可保育所における虐待事件の調査報告書を受けての会長声明

 

1 2020年(令和2年)11月13日、関係者が、二本松市所在の認可保育所「すまいるえくぼ」の元園長が入所児童に対して不適切な行為を行っているとして、二本松市(以下「市」という。)に通報したことを契機に、元園長が園児に対して虐待行為をしていたこと(以下「本件」という。)が判明した。

2 当会は、2021年(令和3年)3月11日、福島県(以下「県」という。)及び市に対して、本件の事実関係について検証を行い、その内容を公表すること及び検証結果を踏まえ再発防止策を適切に講じることを求める会長声明を発出し、同月23日、県と検証委員会設置等について協議したが、この時点で、県は、検証委員会の設置は不要であるとの見解を示した。また、同年5月28日、当会と福島県社会福祉士会は、県に対し、それぞれ、第三者による検証委員会を直ちに設置し、認可基準を満たしていない保育所を認可するに至った原因や度重なる調査によっても虐待等の事実を把握できなかったことにつき検証を行ったうえで、その内容を公表すること及び検証結果を踏まえ、再発防止策を適切に講じることを求める申入書を交付したが、その後の協議において、県は再発防止のための対応を講じているとして検証委員会設置について否定的な認識を示した。同年6月4日には、園児の保護者有志の会が、県に対し、会長声明と同趣旨の要望書を提出したが、県の対応は、原因ははっきりしているので検証する必要がないと回答するのみだった。県の、このような対応に疑問を抱いた福島県社会福祉審議会委員13名は、福島県社会福祉審議会(以下「審議会」という。)に対し、本件の検証と再発防止策等を知事に提言することを議題とする会議の招集請求をした。審議会は、同年11月26日、調査の場を設置することを承認し、2022年(令和4年)3月24日、審議会児童福祉専門分科会保育所部会による調査が開始された。

3 そして、事件発覚から約3年が経過した2023年(令和5年)11月30日、審議会は、保育所部会による調査結果を踏まえ、県知事に対し、園児虐待等の類似事件の再発防止対策検討のための調査報告書(以下「調査報告書」という。)を提出し、再発防止策等の提言を行った。

4 虐待の再発防止のためには、検証による真相解明及び再発防止策の検討が必要不可欠であり、第三者による検証委員会の早期設置等は重要である。この間、報道によれば、会津若松市所在の認定子ども園においても、相談があったにもかかわらず、虐待の継続を防止できなかった事案が発生している。県が、本件について早期に検証委員会を設置し調査報告書で提案されている再発防止策をとっていれば、会津若松市の事案でも虐待行為を早期に発見し、虐待行為の継続を防止することができたものであり、検証についての県の消極的な姿勢は極めて遺憾であると言わざるを得ない。

また、本件においては、事件発覚から調査が開始されるまで時間を要したために、園児及び保護者から県や市を被告とする民事訴訟が提起され、これによって市が訴訟係属を理由に審議会に対する文書の開示を拒否し、行政対応の問題点の検証やそれを踏まえた再発防止策の検討が困難となった。このような経緯から、調査報告書は、保護者らの「知る権利」を踏まえた早期の検証や条例等による市町村の情報提供義務の明確化の必要性についても指摘している。

5 次に、調査報告書では、自治体の相談窓口が一元化されていなかったために虐待情報の提供者が複数の窓口に連絡をしなければならなかったことや、保育所における苦情窓口は設置されていたものの、十分に機能していなかった可能性を指摘している。虐待の深刻化防止や新たな虐待の発生防止のためには、早期の情報収集が重要であり、そのために、自治体の通報・相談窓口を一元化するなどして保護者や保育士等が情報提供しやすいものにして、それを適切に周知することのほか、保育施設の通報・相談窓口が適切に運営されているか否かを監査等の際に定期的に確認すべきである。

6 また、調査報告書においては、各関係機関の担当者が元園長の行為について「しつけの一環である」などと考え、虐待であるとの認識を持つことができず、虐待についての危機意識が低いために、監査等の際に虐待の疑いを持つに至っても早急に対応し、かつ継続的にフォローする必要があるとの認識を持つに至らなかったとの評価がなされている。保育施設における虐待やそれにつながる不適切保育を早期に発見するために、研修や事例検討等を通して、自治体職員等の関係者が虐待、不適切保育に対する意識や感度の向上を図るとともに、相談・苦情申立てを受けた際のガイドラインを作成し、アセスメントシート等のツールを用いて各機関内部での情報共有体制をとることが重要である。

7 さらに、保育施設の運営にあたっては、複数の自治体が関わるものであり、制度設計上、互いに協力して、保育の質や適正な運営を確保することが前提となっている。「子ども・子育て支援法に基づく特定教育・保育施設等の指導監査について」 (平成27年12月7日付け府子本第390号、27文科初第1135号、雇児発1207第2号)別添1「特定教育・保育施設等指導指針」によれば、認可を受けた保育施設の保育の実施については、基本的には、都道府県等の認可等に関する事務により担保されていることから、市町村が実地指導を行うに当たっては、都道府県等と調整を行い、連携を図ることとされ、認可基準等に関する事項に係る指導等については、都道府県等と事前に協議を行うなど綿密に連携を図ることとされている。そのためには、情報共有につき主導的役割を果たす機関を設けて情報を集約し、リスクアセスメントシートを用いて情報共有する等、関係自治体間や他機関との間で情報共有するための体制整備が必要である。

8 当会は、これまで本件に関して会長声明を発出するなどして、本件における事実関係について早期に検証を行ったうえでその内容を公表すること、及び検証結果を踏まえ、再発防止策を適切に講じることを県や市に対して求めてきたが、調査報告書の公表を受け、県は、調査報告書における提言を重く受け止め、誠実にかつ適切に対応すべきである。

さらに、その上で、当会は、保育施設を所管するすべての自治体に対し、特に下記事項についての対応を求める。

(1)保育施設において虐待や不適切保育が発生した場合、速やかに第三者による検証委員会を設置し、虐待の事実調査及び再発防止策の検証を行うこと

(2)保護者や保育士等が情報提供しやすい通報・相談窓口を整備し、適切に周知するとともに、保育施設の通報・相談窓口についても適切に運営されていることを監査等の際に確認すること

(3)虐待や不適切保育に関する職員の認識を高めるための取組を行うこと

(4)虐待情報共有のために主導的役割を果たす機関を設け、情報を集約し、リスクアセスメントシートを用いて情報共有する等、関係自治体や関係機関が適切に連携するための情報共有体制を整備すること

以上

 

2024年(令和6年)1月24日

 

福島県弁護士会

会長  町 田  敦

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