終戦80年を迎えての会長談話
1 先の大戦が終わりを告げてから本年で80年を迎えた。時の経過とともに、戦争体験者の多くが世を去るなどして、その記憶と教訓の継承が課題となっている。戦争の記憶の風化といわれる問題である。政府においても、本年は従来のような閣議決定に基づく談話ではなく、内閣総理大臣の私的なメッセージを出すにとどめるとしており、先の戦争の痛切な反省の態度が後退しつつあるように思われる。しかし、ロシア・ウクライナやイスラエル・パレスチナ等の戦争・紛争地における、集合住宅が一夜にして瓦礫と化し、あるいは、幼い子ども達が食糧の供給を絶たれ、栄養失調で瀕死の状態で横たわるなどの光景は、戦争が、現代においても最大の人権侵害であるということを、改めて明らかにしている。また、ひとたび戦火が起きれば、核兵器の使用が示唆されたり、原子力発電所や核施設への攻撃が行われたりするなど、世界中が核被害の可能性に怯えなければならなくなることも示された。
2 先人は、戦後間もなく制定した日本国憲法において、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」すると宣言し(前文)、それとともに、戦争を永久に放棄し、戦力の保持を認めない(9条)とする規定を設けた。国の最高法規であり、通常の法律よりも極めて厳しい改正手続要件を課している憲法にこれらのことを謳った意義は、戦争の記憶の風化と、国際情勢の変化という現実の中にあっても、なお我が国の政府が、国際紛争への対応のために戦争という手段を選ぶことのないようにし、また国民及び世界の人々を戦争による恐怖と欠乏の状況に陥れることなく、平和的に生存することを保障するためであった。そして、この80年間、世界において戦争が絶えることはなかったが、少なくとも我が国が戦争当事国になることはなかった。
3 しかし、近年の我が国においては、2014年(平成26年)に集団的自衛権を認める憲法解釈の変更が閣議決定によって行われ、この解釈をもとに2015年(平成27年)にはこれを認める安保法制の立法がなされた。その後も、閣議決定によりいわゆる「反撃能力」を容認したり、防衛予算を倍増する方針が示されるなど、なし崩し的に、自衛の限度を超えかねない防衛力の強化が進んでいるように思われる。このまま、上記の憲法の各規定の歯止めがないがしろにされ続ければ、上記の憲法の各規定は死文化し、我が国が国際紛争への軍事的関与をすることを食い止めることは困難となる。
4 繰り返しになるが、戦争は最大の人権侵害である。
当会は、政府及び国会に対して、我が国が、先の戦争の記憶と教訓が刻まれた憲法の精神を継承し続け、この最大の人権侵害を再び犯す途をたどらないこと、そして、国際社会に対して今も続くこの凄惨な行いを停止することを働きかける等、平和のためのあらゆる努力を尽くすことを強く求める。
また、国民に対しては、政府等が戦争の惨禍を起こすことのないようチェックを怠ることなく、不断の努力によってこの憲法的価値を守ることを呼びかける。
当会も、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする専門家の団体として、法的観点から、政府等に対し意見を述べ、国民・市民に情報を提供する等を通じて、平和の維持に寄与する決意である。
2025年(令和7年)8月15日
福島県弁護士会 会長 三 瓶 正