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東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故から12年を迎えるにあたっての会長談話

  本日、2011年(平成23年)3月11日の東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、「本件原発事故」という。)から、12年を迎えた。

本件原発事故により、県内の広範な地域に放射性物質汚染がもたらされ、政府等の避難指示によって避難を余儀なくされた人のみでも10万人を超える住民らが突如として生活基盤を失った。この12年間で、帰還困難区域を除く全ての居住制限区域・避難指示解除準備区域が解除され、帰還困難区域内にも特定復興再生拠点区域が設けられるなど、避難住民の帰還に向けた取り組みが続いている。しかしながら、住民の帰還率がいまだ10%に満たない自治体も複数存在し、本件原発事故以前と同様の社会生活を営むことのできる環境の復旧にはいまだ多くの課題が残されている。当会は、本件原発事故により避難を余儀なくされた被害者が、帰還、移住、避難継続などいかなる選択をしたとしても、その選択を最大限尊重し、一日も早く生活基盤の再建ができるよう、被害者の選択や意向に応じた最大限の賠償や支援を行うことを、引き続き、国及び東京電力ホールディングス株式会社(以下、「東京電力」という。)に対して求める。

損害賠償に関しては、昨年、本件原発事故による損害賠償請求の集団訴訟事件7件の高裁判決が確定し、福島県全域の被害者について、ほぼおしなべて原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針(以下、「中間指針」という。)の水準を上回る損害があり、東京電力には、少なくとも当該事件にかかる損害を賠償すべき法的義務があるとの司法判断が確定した。これを受けて、原子力損害賠償紛争審査会(以下、「原賠審」という。)は、中間指針の第五次追補を策定し、主に個人の精神的苦痛に対する損害賠償の追加・増額について指針を示した。実に約9年ぶりとなる指針の見直しは一定の成果ではあるが、当事者の自主的紛争解決の目安を示す原賠審の役割からすれば遅きに失したものと言わざるを得ない。当会としては、原賠審に対し、あらためて、これまでの消極的な態度を改め、精神的苦痛のみならず、本件原発事故から派生した様々な被害の全体像を調査し、被害実態に即した指針の見直しを実行することを求める。

同時に、本件原発事故から12年という長期間の経過のなかで、被害者の死亡や世帯変動など様々な事情により、損害賠償の実施に支障が生じることも懸念される。当会は、東京電力による損害賠償手続を注視するとともに、被害者が迅速かつ円滑な損害賠償を受けることができるよう、引き続き支援に取り組んでいくものである。

また、本年には、2021年(令和3年)4月13日の廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚会議による方針決定にもとづき、福島第一原子力発電所の構内で保管されているALPS処理水の海洋放出が予定されている。本件原発事故以降、福島県民を中心とする多くの人々が、いわゆる風評被害を継続的に受けてきたところ、処理水の海洋放出により、これまでに生じてきた風評被害がさらに増幅されることが懸念される。

いわゆる風評被害については、個々の事業者が相当因果関係を立証するための客観的データを収集することが必ずしも容易ではないところ、中間指針の賠償基準はきわめて抽象的な枠組みに過ぎず、当事者の公平な自主的紛争解決の目安としては十分に機能してこなかったといえる。当会としては、処理水の海洋放出による風評被害の増幅について注視するとともに、原賠審及び東京電力に対し、風評被害による損害の適切な賠償の実現を求めていくものである。

当会は、東日本大震災及び本件原発事故から12年を迎える本日、国及び東京電力に対し、本件原発事故被害者の自己決定を尊重した損害賠償や生活再建支援を十分に行うことをあらためて求めるとともに、被災者・被害者一人ひとりの「人間の復興」を目指し、支援を継続していく決意を改めて表明するものである。

 

2023年(令和5年)3月11日
福島県弁護士会
会 長  紺 野 明 弘

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