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福島県民、とりわけ子どもたちの安全・安心な未来を確保するよう求める会長声明

1. 東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質の拡散が問題となる中、2011年(平成23年)4月11日、国は、「国際放射線防護委員会(ICRP)と国際原子力機関(IAEA)の緊急時被ばく状況における放射線防護の基準値(年間20~100mSv)を考慮して、事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を『計画的避難区域』とする」と発表した。

また、福島県内において、学校等の校舎や校庭等の利用の是非が問題となる中、文部科学省は、4月19日、原子力安全委員会の助言を踏まえ、福島県教育委員会等に対し、「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」(通知)を発した。同通知は、「幼児、児童及び生徒が学校に通える地域においては、非常事態収束後の参考レベルの1~20mSv/年を学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし、今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であると考えられる」としている。

2. 上記発表及び通知が、従前の一般公衆の年間被ばく基準量である1mSvを超えて、その20倍にあたる年間最大20mSvまで許容するものとなった点について、既に各方面から様々な意見が出されているところであり、当会としても、安易な基準値の緩和を直ちに是とするものではない。

また、現状において上記通知内容を妥当と解する立場であっても、20mSvを下回ればそれでよいというものではなく、その中でも可能な限り年間被ばく量を抑制していくべきことについては異論がないはずである。

しかも、多くの研究者により成人よりも子どもの方が放射線の影響を受けやすいとの報告がなされていることや、放射線の長期的(確率的)影響をより大きく受けるのが子どもであること、子どもたちが舞い上がった砂ぼこりを吸入したりすることにより内部被ばくを受ける危険性があることや、園児や小学校低学年の児童が土や砂を口に入れるなどして放射性物質を体内に取り込む危険性が大人よりも高いこと等に鑑みると、特に、子どもたちが被ばくすることを極力抑制すべく最大限の努力がなされるべきである。

そして、福島県内の広い地域において、従前の一般公衆の年間被ばく基準量である1mSvを超える被ばくが現に生じ、あるいは想定されていることに照らして、福島県民、とりわけ子どもたちについて、長期の健康モニタリングを行い、過大な被ばくにより健康被害を生じた者がある場合には、早期に診断、治療できる医療対応体制が確立されなければならない。

3. 福島県内の幼稚園、保育園及び小中学校269施設を対象として、4月5日から同月7日にかけて実施された環境放射線モニタリング結果によると、地上高1メートルでの空間線量率を地上高1センチメートルでの空間線量率が上回る傾向にあることが明らかとなっている。これは、大気中に放出された放射性物質の多くが地表面に蓄積していることを示すものといえる。

したがって、早急に、福島県内各地の放射線量に応じて、汚染された土壌の除去、除染、客土等の対応が検討されるべきである。

4. 特に、幼稚園、保育園の園庭及び小中学校の校庭については、子どもたちが被ばくすることを極力抑制するため優先的に対応が検討されるべきであり、この検討及び作業が終了するまでは、少なくとも園庭、校庭等における屋外活動を禁止すべきである(この作業の際に、除去された表土からの放射性物質の拡散を防止すべく必要な管理がなされるべきは言うまでもない。また、同時に、大気中及び表土上の放射性物質が集積して流入していると思われる通学路上の側溝についても対応が検討されるべきである)。

そのうえで、引き続き福島県内すべての幼稚園、保育園及び小中学校について、空間線量率や、大気中の放射性物質濃度、土壌の放射性物質に関し、海外を含めた複数の専門機関による詳細なモニタリングを行い、依然として高い放射線量が計測される幼稚園、保育園及び小中学校については、代替施設による屋外活動あるいは学園、学校活動が可能となるよう必要な措置を講じるべきである。

これまでの各種モニタリング結果から、同一市町村内や隣接市町村の地点であっても汚染状況に大きな違いがあることが確認できていることから、生徒及び保護者の生活に過大な負担を与えないような代替施設を手配することは十分可能である。

5. 医療対応体制については、これまでのところ、4月24日、福島県が、子どもの長期的な健康調査や住民の定期的な健康診断などを実施する方向で検討を始めたとの報道がなされたが、現時点では国によっても県によっても具体的な措置は講じられていない。特に、避難あるいは屋内退避の防護措置がとられた地域について、地区外に退避した県民及び地区内にとどまって居住している県民のいずれについても、手厚い医療対応体制を必要とするにも関わらず、何らの対応がなされていないことは重大な問題である。

福島県民、とりわけ子どもたちについて、長期の健康モニタリングを行うための医療管理計画の策定、放射線障害者の早期診断及び治療の訓練を受けた医療従事者の確保及び指定、そのような診断及び治療を行う施設の認定等の医療対応体制が早急に確立される必要がある。

6. 上記3乃至5のような措置をとるためには当然に多額の費用を要することになるが、これは補償の一環として原子力事業者である東京電力株式会社が当然に負担すべきものであり、国がこれを一時立て替えて拠出し、同社に対して求償を行うべきものである。

被ばくを極力抑制すべく最大限の努力がなされ、充実した医療対応体制が確立されなければ、福島県民、とりわけ子どもたちの安全・安心な未来は確保されないのであり、上記の措置は国及び県が主体となり、東京電力及び国の負担において早急に実施されるべきものである。

以上により、福島県弁護士会は、福島県民、とりわけ子どもたちの安全・安心な未来を確保するため、早急に以下のとおりの措置を講じることを求める。

(1)国及び福島県は、福島県内各地の放射線量に応じて、汚染された土壌の除去、除染、客土等の対応を検討すること。

(2)国及び福島県は、特に、幼稚園、保育園の園庭及び小中学校の校庭について、子どもたちが被ばくすることを極力抑制するため優先的に対応を検討し、この検討及び作業が終了するまでは、少なくとも園庭、校庭等における屋外活動を禁止すること。
そのうえで、引き続き福島県内すべての幼稚園、保育園及び小中学校について、空間線量率や、大気中の放射性物質濃度、土壌の放射性物質に関し、複数の専門機関による詳細なモニタリングを行い、依然として高い放射線量が計測される幼稚園、保育園及び小中学校については、代替施設による屋外活動あるいは学園、学校活動が可能となるよう必要な措置を講じること。

(3)国及び福島県は、福島県民、とりわけ子どもたちについて、長期の健康モニタリングを行うための医療管理計画の策定、放射線障害者の早期診断及び治療の訓練を受けた医療従事者の確保及び指定、そのような診断及び治療を行う施設の認定等の医療対応体制を早急に確立すること。

2011年(平成23年)04月25日
福島県弁護士会
会長 菅野 昭弘

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