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福島地方裁判所会津若松支部及び同いわき支部において速やかに「裁判員の参加する刑事裁判」を実施することを求める決議

1. 2009年(平成21年)5月21日から,司法制度改革の一環として裁判員の参加する刑事裁判(以下単に裁判員裁判という)がスタートした。今回の司法制度改革については,国民の間で十分な議論がなされたか否か疑問なしとせず,今後検証し充実させなければならない諸問題が指摘されているところである。裁判員裁判については,福島県弁護士会が平成21年2月21日の定期総会において採択した「充実した裁判員裁判の実施を求める決議」で指摘した,公判前整理手続に関する問題等に加え,例えば対象事件の範囲,裁判員の守秘義務等々,既に様々な問題が存在し今後も生起するものと予想される。

ところで福島県では,裁判員裁判は福島市に所在する福島地方裁判所本庁(以下単に地裁本庁という)及び郡山市に所在する同郡山支部の2箇所においてのみ実施され,従前から,裁判官3名によるいわゆる合議体による裁判が行われている同会津若松支部及び同いわき支部では実施されておらず,このことが福島県弁護士会はもとより,福島県民に対し重大な負担を強いている。

2. 福島県弁護士会は,これまで,どのような事件であれ被疑者被告人の防御権を十分に保障するため,充実した弁護活動を行うべく努力を重ねてきた。しかるに,裁判員裁判が地裁本庁及び郡山支部でのみ実施されることとされた結果,例えば会津若松支部管内やいわき支部管内で発生した裁判員裁判対象事件においては,充実した弁護活動を展開するうえで様々な困難を抱えることとなった。

3. また,裁判員裁判に参加を求められる県民の立場からしても,福島市と郡山市でのみ実施される裁判員裁判への参加は,福島県が,北海道,岩手県に次いで面積が広く,しかも地域間の交通の便がそれほど良いとはいえないうえ,冬期間には相当の降雪に見舞われる地域もあることなどから,多大な負担をもたらすことは明らかである。

そこで福島県弁護士会はかかる事態の速やかな改善を求めて下記のとおり決議する。

福島県弁護士会は最高裁判所をはじめとする国に対し,裁判員裁判において,被疑者被告人の防御権を十分に保障し,より一層充実した弁護活動を確保実現するため,そして福島県民がより負担なく裁判員裁判に参加することが出来る機会を確保するため,速やかに必要な人的物的措置を講じたうえ,福島地方裁判所会津若松支部及び同いわき支部においても裁判員裁判を実施するよう求める。
以上決議する。

2010年(平成22年)02月20日
福島県弁護士会

提案理由

1. 福島県弁護士会の姿勢

福島県弁護士会(以下当会という)は,平成21年2月21日に会津若松市にて開催した平成20年度定期総会において,「充実した裁判員裁判の実施を求める決議」,そして「裁判所支部の充実を求める決議」の二つの決議を採択した。前者は,当時その実施が間近に迫った裁判員の参加する刑事裁判(以下裁判員裁判という)について,被疑者被告人の弁護活動に当たる在野法曹の立場から,その問題点を指摘しつつその充実した実施に向けて様々な提言を行ったものであり,後者は,福島県内各地に存在する裁判所支部の機能が,裁判官の不足などから脆弱化しかねない現状を指摘しつつ,法の支配を行き渡らせ,司法が地域に根ざしたものとなるよう,県内各地の支部機能の充実を求めたものであった。

その後同年5月21日から裁判員裁判がスタートし,既に当県でも本年1月末日時点において計16件(起訴件数)の裁判員裁判が係属したところである。

これまでのところ,全国各地で行われた裁判員裁判において,制度の根幹を揺るがすような重大な問題は生じていないようである。ただ,いわゆる性犯罪や少年事件など,裁判員裁判の対象事件をどう考えるか,裁判員の守秘義務のあり方等々既に問題は生じており,さらに今後,例えば死刑求刑事件や複雑困難な否認事件などが扱われた際に,それがこの制度に様々な問題を投げかけるであろうことは想像に難くない。これらは今後の裁判を通じて全国的に検証されることになる。

ただ,現状での諸問題,そして今後生起するであろう様々な問題を検証し,それを乗り越え,なおこの制度が国民の支持を得て存続するとすれば,当会はそれを前提に,被疑者被告人の弁護活動に携わる在野法曹として,また県民の一員として,いわゆる裁判員法施行3年後の見直しを待つことなく,福島県における裁判員裁判の固有の問題について意見を表明しなければならない。

そこで,上記決議を提案するものである。そしてこの決議は,昨年度の二つの決議を受け,それらを結ぶ一面を有するものでもある。

2. 裁判員裁判の現状と問題点

1)現状の裁判員裁判には,いわゆる公判前整理手続のあり方も含め,様々な問題が存在するが,本県における現下の問題としては,この制度が福島市に所在する福島地方裁判所本庁と,郡山市に所在する福島地方裁判所郡山支部でのみ実施され,県内のそれ以外の支部では実施されないことであるといわなければならない。即ち,少なくとも福島地方裁判所会津若松支部及び同いわき支部では,刑事,民事を問わず,これまでも裁判官3名によるいわゆる合議事件は取り扱われているのであり,合議事件の一つである裁判員裁判を除外していることは不可解であって,まさに裁判所の都合によるものというほかはない。当県は,北海道,岩手県に次ぐ広い県内各地に,特色のある市町村の所在する魅力にあふれた県であるが,市町村間の交通事情は地域により必ずしも良好とは言えず,また冬期間には少なからぬ降雪に見舞われる地域も存在している。それにも拘らず,裁判員裁判がいわゆる県北地区の福島市と県中地区の郡山市でしか実施されないため,その結果,被疑者被告人の防御権上の不利益が生じかねない状況であり,そのような防御権上の不利益を極力生じさせないために我々弁護士が大きな負担を背負っているのみならず,裁判員候補者として,そして裁判員として裁判員裁判に参加しなければならない県民各位は極めて大きな負担を背負わされる事態となっている。

2)即ち,被疑者被告人の弁護活動に当たる弁護士にとって,当初事件が発生し,被疑者が身柄を拘束されている場所と,後に起訴されて裁判が実施される場所,被告人が移管されて勾留されている場所とが遠く離れてしまうことは,被疑者被告人の防御権の十分な保障の見地からして,多大な不利益をもたらすのである。そもそも被疑者被告人の防御権を十分に保障するための弁護活動というものは,捜査段階から公判前整理手続きを含む公判段階を通じ,被疑者被告人との接見を重ね,被疑者被告人との信頼関係を構築したうえで展開されるものである。しかるに弁護士の執務する事務所の場所と被疑者被告人が身柄を拘束されている場所とが遠く離れていれば,接見するにしても多大な時間と労力を要することから迅速な接見への障害となり,これが捜査段階,公判段階を通じ,防御権の十分な保障に悪影響を及ぼすことは明らかである。
この点について当会は,制度の実施前に裁判所に対し,かかる事態への対処方法のひとつとしていわゆるリレー方式(捜査段階の弁護人から公判段階の弁護人に弁護活動を引き継ぐ)の導入などを要望してきたところであるが,上記のような被疑者被告人との信頼関係の構築と維持,弁護活動の継続性の見地からすれば,リレー方式は止むを得ないいわば次善の策であった。即ち,当会がリレー方式などの議論を行ってきたのは,裁判員裁判が地裁本庁と郡山支部でしか実施されず,しかも例えば会津若松管内やいわき管内から郡山支部までは相当の距離があって,弁護活動の負担が極めて大であることが明らかであったからである。
翻って,そもそもこれまで合議事件の裁判を行っている会津若松支部やいわき支部において裁判員裁判が実施されるならば,会津若松管内やいわき管内で発生した事件についてはその地の弁護人が選任され,被疑者の防御権を十分に保障するために充実した接見を行い,起訴後もその弁護人が引き続き弁護活動にあたり,捜査公判段階を通じて同じ弁護人が充実した弁護活動を展開出来るのであるから,リレー方式の導入云々というような議論は不要になる。

3)他方県民の負担もまた極めて大きなものであることは明らかである。広い県内各地から福島市,或いは郡山市に候補者として呼び出され,ひとたび裁判員となれば,少なくとも4日間程度は裁判所に通うなり近くに宿泊しなければならないのであって,いくら日当その他の実費が支給されるとしても,その負担の大なることは論を待たない。特に,冬期間の降雪時に自動車で通わざるを得ない裁判員があれば,その職務に伴う疲労と相俟って裁判員の職務を果たす負担は看過出来ないものであろう。因みに,郡山支部で既に行われた裁判員裁判に関する報道によれば,裁判後記者会見に応じた裁判員経験者の中には,遠隔地からの選任であったが,家族との触れ合いによる安らぎなどを求めて,公判後近くのホテルなどに宿泊することなく裁判中裁判所に通った人がいたこと,いわき管内から出頭した裁判員経験者が地元での実施を望んでいたこと,等々が報じられている。

4)このように,特に遠隔地から参加する裁判員候補者や裁判員が,心身両面にわたり相当の負担を被っていることは明らかであると思料される。現時点においては,裁判員候補者を無作為に呼び出しても,事前の辞退を緩やかに認めていることもあり,高い出頭率が維持されており,そこから必要な人数は確保出来て裁判員裁判は実施出来ているから,裁判所とすれば,この制度には問題が無い,という認識とも推察されるところである。しかし,当県において裁判員候補者の出頭がそれなりに確保されているのは,他の裁判所同様,日本国民の生真面目さ,責任感の強さ,或いは制度発足当初の緊張感などに由来するものと見るべきではなかろうか。従って,今後この制度が継続し,当初の興奮も収まり,事前の辞退が緩やかに認められたうえに,不出頭の候補者に特段の措置が講ぜられず,加えて死刑求刑事件や複雑困難な否認事件など,裁判員にとって負担の大きい事件が増加してくれば,今後の裁判員の確保は決して楽観出来ないというべきであろう。その結果,特に本県において現状のままで制度が運用されれば,福島市や郡山市近辺の人々,或いは時間的にも経済的にも比較的余裕のある人々しか参加出来なくなってくる恐れがあり,かくては広く一般市民が参加して刑事裁判に民意を反映させようとしたこの制度の根幹すら揺らぎかねないこととなろう。

3. 充実した裁判員裁判の実現と支部機能の充実のために

先に一言したとおり,もともと福島地方裁判所会津若松支部や同いわき支部では,刑事事件でも裁判官3名による合議事件は取り扱われているのであり,裁判員裁判を除外する理由はない。そして,会津地方,或いはいわき地方で発生した事件の裁判を遠隔地である郡山市で行うということは,地域に根ざした司法という考え方にもそぐわず,弁護活動に当たる我々弁護士にとっても,裁判員候補者,裁判員として裁判に参加する県民各位にとっても極めて負担の大きな状況であることは明らかである。なお,本来であれば,その他の福島地方裁判所白河支部や同相馬支部でも裁判員裁判が行われるべきものとも考えられるところであるが,少なくとも当会としては,支部の機能を維持し充実させていくという観点からしても,これまで合議事件を扱っている会津若松支部及びいわき支部では裁判員裁判が行われてしかるべきものと考える。

当会は,被疑者被告人の弁護活動に当たる在野法曹団体として,被疑者被告人の防御権を十分に保障する,一層充実した弁護活動を展開するため,当会の総力を挙げてさらなる努力を重ねることをあらためて決意する。そして,それとともに最高裁判所をはじめとする国に対しては,被疑者被告人の防御権を十分に保障する見地から,また,制度に参加する県民各位の負担を出来る限り軽減し,地域に根ざした身近な司法を実現し維持していくために,少なくともこれまで合議事件を取り扱っている福島地方裁判所会津若松支部及び同いわき支部においては,速やかに所要の予算措置を講じ,裁判員裁判に対応出来るだけの裁判官,書記官等の関係者を配置し,同時に法廷等の諸設備を整えるなどしたうえで,一日も早く裁判員裁判を実施するよう強く求めるものである。

そこで前記決議案を提案する。

以上

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