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民法の成年年齢の引下げに反対する会長声明

法務省は、平成28年9月1日から同月30日までの間、「民法の成年年齢の引下げの施行方法」に関し意見募集を行ったが、報道によれば、政府は来年の通常国会に成年年齢を20歳から18歳に引下げる内容を含む民法改正案を提出する見込みとのことである。
意見募集要領によれば、選挙権年齢が18歳に引下げられたことをもって民法の成年年齢の引下げを適当とするようであるが、法律における年齢区分はそれぞれの法律の立法目的や保護法益ごとに規定されているものである。民法の成年年齢は、行為能力が制限されることによって取引における保護を受けることができる年齢及び親権の対象となる年齢の範囲を画する基準とされているところ、民法の成年年齢の引下げについては、私法上の行為能力を付与するにふさわしい判断能力の有無及び親権に服することによる利益の観点から議論されるべき事柄である。
成年年齢の引下げにより若年者に大きな影響を与えるものの一つとして未成年者取消権の問題がある。民法では、未成年者が単独で行った法律行為について、未成年者であることのみを理由にこれを取り消すことができることとされており(民法第5条第2項)、これによって未成年者が悪質な業者との間で違法もしくは不当な契約を締結するリスクを回避することができ、また、そのような悪質な業者に対する大きな抑止効果となっている。
民法の成年年齢を18歳に引き下げることは、今まで保護の対象とされてきた18歳、19歳からこの権利を奪うことになるが、現状で上記リスクへの対策がとられているとは言い難く、消費者被害のターゲットが18歳、19歳の若年者に拡大することにつながる危険性は極めて大きい。
養育費の支払終期が繰り上げられるおそれがあることも重大である。

養育費の支払終期については、そもそも民法の成年年齢を基準とすべきではなく、経済的に自立していない子、すなわち「未成熟子」概念を基準とすべきであるが、実際には、「子が成年に達する日の属する月まで」など民法の成年年齢概念による合意がなされることが少なくない。このようななかで、民法の成年年齢を引き下げられた場合、養育費の支払終期も連動して引き下げられた合意がなされることが強く懸念される。
また、2016年の通常国会で成立した改正児童福祉法には、児童自立生活援助事業の対象期間を22歳の年度末までとする内容が盛り込まれているが、これは自立に課題を抱え困難な環境下にある若年者に対し民法の成年年齢にかかわらず社会的支援が必要であることが社会的な合意になっていることの現れである。
そもそも意見募集は、民法の成年年齢を引下げることを前提にその施行方法について意見を求めたものであり、引下げの是非について正面から意見を求めたものではなく、引下げについていまだ国民的な議論がなされたとは言い難い状況にある。
民法の成年年齢を引下げることについては、上記のような様々な弊害が指摘されているところ、まずはこれら弊害に対応する施策の具体化、充実化こそが検討されるべきであり、そのうえで国民的議論をするという手順を踏むべきであるから、当会は、現時点において民法の成年年齢を18歳に引き下げることに反対する。

以上

 2016(平成28)年11月30日
福島県弁護士会
会長 新開 文雄

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