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憲法改正手続・国民投票に関する与党案・民主党案に反対する声明

日本国憲法の改正手続に関し、自民・公明の与党は平成18年5月26日「日本国憲法の改正手続に関する法律案」(以下「与党原案」という)を、また民主党も同日「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」(以下「民主党原案」という)を、それぞれ衆議院に提出し、現在継続審議となっている。そして、与党及び民主党は国会審議の内容をふまえて、同年12月14日に与党原案及び民主党原案のそれぞれの修正要綱案(以下「与党修正案」及び「民主党修正案」という)を公表し、更に、安倍首相は通常国会の冒頭における施政方針演説で、改正手続きを定める国民投票法案の今国会での成立を目指す考えを示した。

言うまでもなく、憲法は国家権力を制限して国民の人権の保障を図るためのものであり、かかる立憲主義の理念に基づいて、日本国憲法は国民主権・基本的人権の保障・恒久平和主義等の基本原理を定めている。

憲法改正手続における国民投票は、かかる基本原理を定めた国の最高法規である憲法について、主権者である国民の意思を最終的に表すものである。従って、国民投票手続においては、何よりも国民自身が自由な意思を形成し、判断できるよう十分な情報が適正・公平に提供され、不当な干渉がない中で、広範な国民によって広く活発に議論がなされることが何よりも求められる。とりわけ、憲法改正案の内容やこれに対する賛否の意見等について、適正・公平な周知がなされ、その情報が国民全体に行き渡るよう十分な時間をかけてなされることが当然の前提とならなければならない。加えて、国民投票の結果に、国民の意思が正確に反映されるよう制度設計がなされなければならない。

しかるに、与党原案は、裁判官・検察官、公安委員会の委員、警察官に対して国民投票運動を全面的に禁止し、その他の公務員と教育者についても、地位を利用して国民投票運動をすることを禁止し、違反者に対する罰則規定までを設けていたが、与党修正案、民主党修正案においても、公務員と教育者については、依然として、その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行いうるような影響力(教育者にあっては、学校の児童、生徒及び学生に対する影響力)又は便益を利用して国民投票運動をすることを禁止する規定を設け、解釈如何によっては、実質的に公務員・教育者が国民投票運動をすることができないような規定を設けている。

しかし、国の最高法規たる憲法の改正という重要問題については、公務員・教育者といえども、国民・市民の一人として、その活動・運動の範囲は最大限に尊重されなければならない。しかも、「その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行いうるような影響力(教育者にあっては、学校の児童、生徒及び学生に対する影響力)又は便益を利用して」などという曖昧な概念で、公務員・教育者の自由な活動を不当に規制することは、甚だしい萎縮効果をもたらしかねない。

また、与党修正案及び民主党修正案は、「国民投票広報協議会」(以下「広報協議会」という)を設置し、この協議会に憲法改正案の広報に関する事務を行わせるものとしているが、「広報協議会」の構成については、各会派の所属議員数を踏まえて各会派に員数を割り当てるとしている。

しかし、憲法改正の発議は、各議院の議員の3分の2以上の賛成でなされるものである以上、「広報協議会」の構成も必然的に、憲法改正賛成派の議員が多数を占めることになりかねない。

国民投票が、最終的に最高法規である憲法について、主権者たる国民の意思を表す制度であることからすると、議会の多数意思とは別に、憲法改正についての賛否の意見は、公平・中立に国民に提示される必要があるわけであるから、「広報協議会」に関する与党修正案、民主党修正案とも看過し得ない問題がある。

加えて発議後投票までの期間について、与党修正案、民主党修正案とも、発議後60日以後180日以内と規定しているが、憲法改正という問題は、将来の長きにわたって国の在り方を左右するものであるから、主権者たる国民の議論と運動が現実的になされるように、また、一人一人の国民が十分に熟慮した上で投票できるようにするためには、最低でも1年という期間は必要であると考えられる。

さらに、与党修正案、民主党修正案とも、国民投票にあたっての最低投票率の定めを置いていない。しかし、この最低投票率を定めないと、投票権者のほんの一部の賛成により憲法改正が行われることになり、憲法改正の重要性を考えるとき、重大な問題が残ると言うべきである。

また、与党修正案、民主党修正案とも、賛成投票の数が投票総数(憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数)の2分の1を超えた場合に、憲法改正について国民の承認があったものとしている。しかし、憲法改正という重大性を考えれば、全投票権者の過半数の賛成を必要とする考え方にも十分な理由があるところであり、仮にそのような立場を取らなくても、国民投票が国の最高法規たる憲法の改正という極めて重要な問題を問うのであるから、少なくとも改正に明白に積極的に賛成する者の数が、投票総数の2分の1を超えるか否かによって決することが、民意を尊重する憲法の趣旨に合致していると言うべきである。

以上のとおり、国民投票が重要な国民の主権の行使である観点からみると、憲法改正手続に関する与党修正案、民主党修正案には未だ解消されていない重要な問題点が数多く含まれていることから、当会は与党修正案、民主党修正案のいずれに対してもこれに反対する。

2007年(平成19年)1月31日
福島県弁護士会
会長  岩渕 敬

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