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特定商取引に関する法律における指定権利制度の廃止等を求める意見書

特定商取引に関する法律における指定権利制度の廃止等を求める意見書

 

第1 意見の趣旨

1 特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)第2条に定める指定権利制を廃止し,原則として,全ての「権利の販売」を規制対象取引とするべきである。

2 この場合における「権利」の定義について,「施設を利用し又は役務の提供を受ける権利のうち国民の日常生活に係る取引において販売されるものであつて政令で定めるもの」との限定を削除するべきである。

第2 意見の理由

1 指定権利制の現状

特定商取引法は,商品の販売,権利の販売及び役務を有償で提供する契約を規制対象取引としているが,そのうち権利についての規制対象取引は,「指定権利」の販売,すなわち「施設を利用し又は役務の提供を受ける権利のうち国民の日常生活に係る取引において販売されるものであつて政令で定めるもの」(同法2条4項)の販売に限っている(同法2条,以下「指定権利制」という)。

そして,政令が「指定権利」として定めるのは,以下の3つの権利のみである(特定商取引に関する法律施行令3条,別表1)。

一 保養のための施設又はスポーツ施設を利用する権利

二 映画、演劇、音楽、スポーツ、写真又は絵画、彫刻その他の美術工芸品を鑑賞し、又は観覧する権利

三 語学の教授を受ける権利

2 規制の趣旨に照らした「権利」の定義の不合理性

(1)特定商取引法の規制の趣旨

特定商取引法は,訪問販売,通信販売及び電話勧誘販売について規制をしているが,これらの方法による販売を規制する趣旨は次のとおりである。

① 訪問販売については,販売業者が消費者の意向や心構えに関わらずに訪問し,あるいは販売方法を隠して入り込み,強引な販売を行ったり,詐欺的な話法を用いて購入を勧誘したりする例がしばしばみられ,しかも交渉が販売業者の主導のもとに行われることから,契約内容が不明確となり,解約等についてのトラブルも発生しやすく,トラブルの際の責任追及も困難となりやすいから,消費者保護のために規制をする必要がある

② 通信販売は,消費者にとって広告が唯一の情報入手手段であることから,その広告表示に曖昧な表現や誇大な表示がなされることによるトラブル発生の可能性が比較的高い。また,通信手段が唯一の媒体であることなどからトラブルの際の責任追及も困難となりやすいので,消費者保護のために規制をする必要がある。

③ 電話勧誘販売も,通信販売の一種であり,それが販売業者の主導の下に行われる点,トラブルの際の責任追及が困難である点などから,前記①②の両方の問題点のいずれをも有する販売方法であるので,消費者保護のために規制をする必要がある。

(2)規制の趣旨に照らした現行の「権利」の定義の不合理性

以上の規制の趣旨は,販売の対象がいかなるものであるかに関わらず等しく妥当するものであり,それは「権利」の場合も同様である。現行の特定商取引法が,平成20年改正の際に指定商品制・指定役務制を廃し全ての「商品」「役務」を対象とするに至った理由もこれである。すると,「権利」についてのみ,「施設を利用し又は役務の提供を受ける権利のうち国民の日常生活に係る取引において販売されるものであつて政令で定めるもの」という限定を加えることは,規制の趣旨と全く整合しない。

また,「権利」は契約によって自由に生成することができるため,販売業者は実質的には商品や役務の販売に等しい内容の「権利」を販売したとの形式をとることによって,「商品」「役務」の販売であれば適用されるはずの規制を容易に回避することができることになる。すると,「権利」について「施設を利用し又は役務の提供を受ける権利のうち国民の日常生活に係る取引において販売されるものであつて政令で定めるもの」という限定を加えることは,販売業者に対して「商品」「役務」の販売について規制回避の抜け穴を提供することになる点で規制の趣旨に照らして全く不合理である。

3 「権利」の販売取引にかかる消費者トラブルの急増

以上のとおり,特定商取引法における「権利」の定義は不合理なものであるところ,現に次のとおり,指定権利に該当しない権利の販売について,消費者トラブルが増加している実態がある。

① 「東日本大震災」でよせられた消費生活相談情報(第6報)

独立行政法人国民生活センターの「「東日本大震災」でよせられた消費生活相談情報(第6報)」によれば,放射能関連の相談として,平成23年6月11日から同年9月10日までの期間に「ファンド型投資商品」に関する相談が急増している(7頁)。

そして,「主な相談事例」の第1として,「「有名大学の准教授と代表者が共同で、放射能汚染された土地からセシウムを効率的に取り除く仕組みを開発した」というパンフレットが送られてきたあと、別会社から「社債を購入してくれたら高値で買い取る」との電話があり、申し込んだが取り消したい。」という事例が紹介されている(7頁)。

② PIO-NET にみる 2011 年度の消費生活相談

同じく同センターの「PIO-NETにみる2011年度の消費生活相談」によれば,「水資源の権利,有料老人ホームの利用権など投資の名目が次々と変化し,トラブルが起きている」ことや(4頁),「有料老人ホームの利用権など,実態のわからない権利を販売する詐欺的な取引が含まれる「ファンド型投資商品」」についての相談の増加が指摘されている(7頁)。

③ 同センターによるその他の発表情報

以上に加え,同センターは,平成22年以降に限っても,「老人ホーム入居権」「海外不動産所有権付きリゾート会員権」「カンボジアの土地使用権」「CO2(二酸化炭素)排出権」「水資源の権利」「リゾート会員権」及び「カラオケ著作権」に関する取引にまつわるトラブルについて警告を発するに至っている。

これらの報告に登場する権利のほとんどは,指定権利に該当しないことから,特定商取引法の規制対象取引ではない。しかも,そのうち「施設を利用し又は役務の提供を受ける権利のうち国民の日常生活に係る取引において販売されるもの」(特定商取引法第2条第4項)に該当しないものについては,そもそも政令で指定することができない。よって,「権利」の定義の是正は急務といわなければならない。

4 結論

以上のとおり,特定商取引法の指定権利制度は不合理なものであり,かつ,現に「権利」の定義に該当しない「権利」の販売についての消費者トラブルが増加している現状にある。

特に,被災県の一つである福島県を設立の基準となる区域とする弁護士会である当会は,放射能関連の消費者トラブルの相談の急増という,災害を悪用し震災関連被害を受けた被災者に対してさらなる被害を与える消費者被害の実態を絶対に座視することができない。

よって,当会は,意見の趣旨のとおり,特定商取引法第2条に定める指定権利制を廃止し,原則として,全ての「権利の販売」を規制対象取引とすると共に,同条における「権利」の定義を是正することを求める。

以上

2014年(平成26年)3月24日

福島県弁護士会

会 長 小 池 達 哉

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