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福島第一・第二原子力発電所事故から1年を迎えるにあたっての会長談話

1. 2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災及びこれに伴う東京電力福島第一・第二原子力発電所事故から、間もなく1年が経過する。

今回の原子力発電所事故は、福島県民をはじめとする多くの国民に避難、被ばくを余儀なくさせたうえ、その生活や財産、営業、雇用、教育、地域コミュニティーなどを広範に、継続的かつ長期的に根底から破壊し、重大な人権侵害を引き起こした。

政府による避難指示等が出された地域の人口について、平成22年国勢調査速報等をもとに政府が推計したところによれば、福島第一原子力発電所から20km圏の人口は約7.8万人、同じく30km圏の人口は約14.1万人、計画的避難区域の対象人口は約1万人とされている(原子力損害賠償紛争審査会(第4回)配付資料3-2)。また、中間指針追補で自主的避難等対象区域とされた23市町村の人口は、合計約150万人とされているうえ、それ以外の市町村においても自主的避難を実施した被害者、事故前と比較して格段に高い放射線量のなか居住を続けている被害者が存在する。

2. 当会は、今回の原子力発電所事故発生後、2011年(平成23年)3月29日から無料電話相談を開始し、4月2日からは避難所へ出張しての無料面談相談を開始した。当会がこれまで行ってきた相談活動のうち原子力損害賠償に関するものは、2012年(平成24年)3月8日の時点で無料電話相談が1,389件、無料面談相談が1,052件である。

2011年(平成23年)6月25日には県内6支部8会場において原発事故損害賠償説明会を開催し、合計約3,300人の来訪を受けて、福島県原子力災害被災者・記録ノート(通称「被災者ノート」)を合計約7,150部以上配布し、損害賠償手続の流れの説明を行った。

2011年(平成23年)9月1日には、政府の紛争解決センターが受付を開始するのと同時に、福島県弁護士会原子力発電所事故被害者救済支援センターが受付を開始し、原子力損害賠償を担当する弁護士の紹介を行ってきた。同救済支援センターの受付件数は、2012年(平成24年)3月8日の時点で合計612件である。

3. しかし、原子力発電所事故の被害者救済は、未だ全く進展していない状況であると言わざるを得ない。

原子力損害賠償紛争審査会が公表したいわゆる中間指針及び中間指針追補は、被害者の完全賠償の実現のためには、対象区域及び損害項目・損害額の算定等について不十分なものである。

東京電力株式会社が発表した2012年(平成24年)3月2日時点での賠償実績によれば、いわゆる個人の直接請求分について、請求書の受付件数(累計)が約67,500件、合意に至った件数(累計)が約42,500件とされている。以上の実績件数は、避難指示等対象区域の全人口と照らしても、余りにも低い水準である。

政府の紛争解決センターをみても、センターによる総括基準の策定や中間指針で目安として示された金額を超える慰謝料の増額を認めた和解の成立等、一定の進展がみられるとはいえ、報道によれば、2012年(平成24年)3月2日までの申立受付件数は1,181件であるところ、うち和解成立は16件にとどまっているとされており、紛争解決センターが概ね3か月程度を標準仲介期間としている点は全く実現できていない。

4. 被害者に対する完全なる賠償を実現するためには、原子力損害賠償紛争審査会が今回の原子力発電所事故による被害の実態を更に十分に調査したうえで、中間指針及び中間指針追補における対象区域及び損害項目・損害額の算定について不十分な部分の見直しを実施し、新たな指針を示すことが必要不可欠である。

今回の原子力発電所事故の被害者が前記のとおり膨大な数に上ることに照らせば、原子力損害賠償紛争審査会は被害者の迅速な損害賠償の実現のため、これまでの損害賠償における実績等を踏まえて、損害項目によっては立証を要さずして認めるべき損害額あるいは少なくとも推定される損害額等を指針として示すことも検討されるべきである。

紛争解決センターに関しては、その人的・物的体制を大幅に充実させることが必須であるとともに、東京電力には仲介委員の提示した和解案を尊重することが求められ、国は東京電力への指導、監督を徹底し、仲介委員の和解案に片面的拘束力を付与することも含めた施策を検討すべきである。

また、東京電力には、被害者からの直接請求においても、紛争解決センターが定めた総括基準や紛争解決センターにおける和解の実例等を踏まえた柔軟な対応が求められる。現に、2012年(平成24年)2月17日に開催された第23回原子力損害賠償紛争審査会において、紛争解決センターの野山宏室長は「実例の公表とか総括基準の策定・公表等も推し進め、それらが被害者と東京電力の相対交渉における基準になっていくという、そういう姿、それによって10万件以上の紛争案件が解決される、そのような姿を最終的に目指している」と述べているところであり、国はこの考え方に基づく東京電力への指導、監督を徹底すべきである。

更に、今回の原子力発電所事故による被害者の救済のためには、単に金銭的賠償だけでなく、放射性物質の除去(除染)による環境回復、被ばくによる将来の健康影響に対する予防対策、被害者の生活・生業回復に向けた支援策が一体として図られる必要があり、東京電力、国及び地方公共団体は、真の被害者救済を実現するためこれらの施策を速やかに進めていく必要がある。

5. 当会としては、以上のような原子力発電所事故による被害者がおかれた状況及び今後の課題を踏まえて、被害者の救済支援のために今後とも尽力する決意である。

2012年(平成24年)03月09日
福島県弁護士会
会長 菅野 昭弘

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