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新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況下における災害時の避難所について民間宿泊施設等の積極的活用を求める会長声明

新型コロナウイルス感染症が日本国内において感染拡大を続けており,国が新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき全都道府県を対象区域とする緊急事態宣言を発出し,感染機会を減らすために人の集まる施設の休業要請や外出自粛要請がなされる状態となっている。2020年(令和2年)5月14日,福島県を含む39県で緊急事態宣言が解除され,5月25日には全都道府県で解除されたが,新たな感染拡大を予防するために,人との接触をできるだけ減らすことが引き続き要請されている。

このような状況の下でも,いつどこで自然災害が発生するかは予測できない。自然災害が発生しまたはそのおそれがある場合に,その危険から生命身体を守るために,災害対策基本法第49条の4にいう指定緊急避難場所(以下「避難場所」という。)に避難し,また同法第49条の7にいう指定避難所(以下「避難所」という。)に滞在をする必要があることは言うまでもない。

しかし,過去の自然災害時に設置開設された避難所の多くは,学校,公民館・集会場などを利用したものが多く,多数の避難者が密集した劣悪な衛生環境の下で避難生活を送らざるを得ないことがしばしばあった。そのため,例えば2011年(平成23年)3月の東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故の際には,福島県内においても一次避難の避難所となった公共施設等において,結核やインフルエンザ,感染性胃腸炎などの集団感染事案が発生し,昨年の台風19号豪雨災害のいわき市の避難所においてノロウイルスを原因とみられる感染性胃腸炎の集団感染事案が発生したことは記憶に新しいところである。

このような従前の自然災害における避難所の状況は,特に現在の新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況下においては,集団感染(いわゆるクラスター感染)を引き起こす原因となることが危惧されている。例えば,NPO法人環境防災総合政策研究機構が,避難経験のある15都道府県の住民を対象に行ったアンケート調査では,約5200名の回答者のうち73%が「新型コロナウイルス感染症の感染拡大が災害時の避難行動に影響する」と回答し,そのうち「自治体が指定する避難所に行かないようにする」との回答が約22%,「車中泊避難をする」が約42%に上った(ただし複数回答)とのことである(本年5月20日共同通信報道)。災害による生命身体への危険が差し迫った状況において,「避難場所」への避難をためらうことは,感染リスクより大きな生命身体へのリスクを冒すこととなる。しかし,その後に避難者が比較的長期間にわたって滞在を続ける「避難所」における感染リスクを減少させなければ,避難行動の妨げになるだけでなく,避難所における集団感染の原因ともなり,結果として多くの貴重な人命が失われる結果につながりかねない。

内閣府・消防庁・厚生労働省は,本年4月1日付「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応について」,同7日付「避難所における新型コロナウイルス感染症への更なる対応について」との事務連絡を各都道府県等宛に発出し,避難所における衛生環境の確保や手洗い・換気等の感染症対策に加えて,「発災した災害や被災者の状況等によっては,避難所の収容人数を考慮し,あらかじめ指定した指定避難所以外の避難所を開設するなど,通常の災害発生時よりも可能な限り多くの避難所の開設を図るとともに,ホテルや旅館等の活用等も検討すること」などを助言している。また,同年4月28日付事務連絡「新型コロナウイルス感染症対策としての災害時の避難所としてのホテル・旅館等の活用に向けた準備について」では,宿泊業団体等と連携してホテルや旅館等の活用の検討を助言するとともに,同年5月28日「『新型コロナウイルス感染症対策としての災害時の避難所としてのホテル・旅館等の活用に向けた準備について』を踏まえた対応について」等において,活用の具体的方法や費用負担(災害救助法に基づく国庫負担や交付金の活用等)についても助言している。また,新聞報道等によれば,福島県の設置した第三者委員会において,市町村がホテルや旅館を避難所とした場合,県が費用の半額を補助する制度が提言される見込みであるとのことである。

しかし,NHKが本年4月に福島県内の全市町村(59市町村)を対象に行ったアンケート調査の結果によれば,有効回答数58市町村のおよそ9割にあたる52市町村が,災害が発生した場合の避難所開設について,感染防止用の物資の準備,十分な距離の確保,避難所運営や医療関係者の確保など,何らかの懸念があると回答しており(本年5月1日NHK報道),避難所における感染症拡大予防がなお課題となっている。

特に福島県においては,上記のように,東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故により多数の人が避難生活を送った公共施設での一次避難の中で結核等の集団感染が発生し,その後,旅館やホテルなどの民間宿泊施設等への二次避難(分散避難)が進められたが,こうした分散避難が完了するまでには数ヶ月の期間を要した。仮に,大規模災害が今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況下において発生した場合を想定すれば,公共施設等を利用した避難所への一定期間の滞在を経てから民間宿泊施設等への分散避難という対応では,その間に爆発的な集団感染を招いてしまう危険が高く,結果として多数の貴重な人命が失われるおそれがある。そこで,今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大のような状況下において自然災害が発生した場合には,上記のような国の通知等を踏まえ,旅館やホテルなどの民間宿泊施設等をいわば「みなし避難所」として積極的に活用し,避難者を,発災後可及的速やかに避難場所から直接に民間宿泊施設に移送することとすべきである。また,移送にあたっては,移送中の集団感染リスクを減少させるため,可能な限り少人数ごとの移送を行うべきである。

こうした措置は,現下の感染拡大状況において,特に観光客向けの民間宿泊施設や旅客運送業者が営業自粛や事業縮小を余儀なくされていることからすれば,十分に実現可能であると考えられる。また,災害の規模や性質等によっては,当該市町村外の宿泊施設への移送を行う必要も生じるものと思われるが,これについては,県が各市町村及び宿泊施設・旅客運送業者の業界団体等と協議しあらかじめ協定を締結することなどにより,十分に対応が可能である。

以上を踏まえ,本会は,福島県内各市町村に対し,新型コロナウイルス感染症の感染が拡大している状況の下で自然災害が発生した場合には,民間宿泊施設等を避難所として積極的に活用することを求めるとともに,自然災害時に備えて,民間宿泊施設や旅客運送業者やこれらの業界団体等と協議し,協定締結等を行うことを求める。また,本会は,福島県に対し,県内各市町村及び宿泊施設・旅客運送業者の業界団体等との間で,宿泊施設の避難所としての利用や避難者の移送等について協議し,協定締結等を行うことを求めるものである。

 

※避難場所と避難所は,2013年(平成25年)の災害対策基本法改正によって明確に区別されるようになったものであり,避難場所は切迫した災害の危険から逃れるための施設または場所,避難所は避難した住民等を災害の危険性がなくなるまでの間滞在させまたは災害により住居に戻れなくなった住民を一時的に滞在させるための施設とされている。ただし,避難場所と避難所は相互に兼ねることができるとされているため(同法第49条の8),たとえば地震等の際に,避難場所と指定された学校等がそのまま避難所となることがある。

 

2020年(令和2年)6月24日

福島県弁護士会

会長  槇   裕 康

 

(執行先)

福島県,福島県内の各市町村

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