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東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故から9年を迎えるにあたっての会長声明

 本日,2011年(平成23年)3月11日の東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故(以下,「本件原発事故」という。)から,9年を迎えた。
 本件原発事故は,県内の広範な地域に放射性物質汚染をもたらし,政府等の避難指示によって避難を余儀なくされた人のみでも10万人を超える住民らが突如として生活基盤を失った。この9年間に,多くの地域で避難指示が解除され,避難住民の帰還に向けた取り組みが続いている。しかしながら,避難が長期化し居住環境が荒廃していること,生活インフラや就労環境等の回復が十分ではないこと,除染によってもなお放射線量の高い箇所が残存していることなどの複合的な理由から,本件原発事故以前と同様の生活が成り立つ状況にはなく,避難者が帰還を決断するのは容易なことではない。当会は,これまで,本件原発事故により,避難を余儀なくされた被害者が,帰還,移住,避難継続などいかなる選択をしたとしても,その選択を最大限尊重し,一日も早く生活基盤の再建ができるよう,被害者の選択や意向に応じた最大限の賠償や支援を行うことを,加害者である国及び東京電力ホールディングス株式会社(以下,「東京電力」という。)に対して求めてきたが,いずれの対応もまだ不十分と言わざるを得ない。また,東京電力は,原子力損害賠償紛争解決センターの和解案を合理的な理由なく拒絶し続けるばかりか,最近では裁判所の和解案すら拒絶するに至るなど和解案尊重の約束も反故にし,賠償に対する誠実な態度は見られない状況である。当会は,このような状況に鑑み,改めて,国及び東京電力に対し,被害者の自己決定を尊重した賠償や生活再建支援を十分に行うことを求める。
 本件原発事故による賠償請求権の時効期間は,2013年(平成25年)12月に成立した「東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例に関する法律」(以下,「特例法」という。)により,被害者が損害及び加害者を知った時から10年,損害が生じたときから20年とする特例が適用されている。しかし,本件原発事故による損害賠償は,極めて多数の被害者が存在すること,個々の被害者に性質や程度の異なる損害が同時に,かつ日々継続的に発生していること,長期の避難生活等の事情により,損害額の把握やその算定の基礎となる資料収集に支障をきたす被害者が存在すること,ことに不動産等の賠償については,数次にわたる相続関係の処理等に長期間を要する事例があることなど,一般的な不法行為に基づく損害賠償とは異なる特殊性があり,特例法にもかかわらず,このままでは賠償請求権が時効により消滅してしまう事態が強く懸念されるところである。当会は,2019年(令和元年)10月16日付「原発事故損害賠償請求権の時効消滅に対応するための立法措置を求める会長声明」において,時効再延長のための再度の立法措置を求めているところであるが,消滅時効期間の完成が早ければ1年後にも迫っていることから,国に対し,再度の立法措置に向けた検討を早期に開始することを強く求める。
 また,東日本大震災からの9年間の間に,わが国では,大規模な自然災害が頻発している。この1年間においても,2019年(令和元年)10月の令和元年台風19号災害及びその後の豪雨災害(以下,総称して「令和元年台風19号等災害」という。)により,福島県を含む広い地域に甚大な被害が発生している。大規模な自然災害は突如として生じ,生命身体に対する甚大な被害をもたらすとともに,その生活基盤である住家や生業の基盤等を喪失・損壊する。自然災害からの生活再建は,被災者個人の自助努力のみではいかんともしがたく,いわゆる「災害ケースマネージメント」に基づき各人の被災状況やニーズに応じたきめの細かい公的支援が必要不可欠である。当会は,国に対し,災害被災者一人ひとりの生活再建のための公的支援施策の充実を求めるものである。
 当会は,東日本大震災及び本件原発事故から9年を迎える本日,被災者・被害者一人ひとりの「人間の復興」を目指し,支援を継続していく決意を改めて表明するとともに,国及び東京電力に対し,本件原発事故被害者の自己決定を尊重した賠償や生活再建支援を十分に行うこと,国に対し,原子力損害賠償請求権の消滅時効期間の延長等に関する立法措置の検討を早期に開始することを,改めて求める。さらに,国に対し,災害被災者一人ひとりの生活再建のための公的支援施策の充実を求めるものである。

2020年(令和2年)3月11日

福島県弁護士会
会長  鈴 木 康 元

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