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福島県及び県下の各市町村に犯罪被害者等支援条例を制定し充実した経済的支援策の実施を求める会長声明

1 福島県における犯罪被害者等支援条例等制定の動き
近年、地方公共団体における犯罪被害者等(犯罪等により被害を受けた者及びその家族又は遺族)支援条例制定の必要性についての認識が広まり、全国各地で、犯罪被害者等支援条例を制定する動きが広まっている。
現状、福島県及び県下の各市町村において、犯罪被害者等支援条例が制定されているところはないものの、令和3年6月30日、福島県において、犯罪被害者等支援条例案が公表されたところであり、同年9月には同議案が県議会に提出され、令和4年4月に同条例が施行される予定とされている。
また、同条例施行と同時に、犯罪被害者等支援に関する施策を推進するため、犯罪被害者等支援計画が定められる予定である。
この度の福島県における犯罪被害者等支援に特化した条例の制定、及び支援計画を定める動きは、犯罪被害者等の支援及び県民が安心して暮らせる地域社会の実現を図るためにも非常に意義のあることであり、今後、市町村へと条例の制定等の動きが広まることも期待される。

2 福島県の犯罪被害者等支援条例及び支援計画に求められる内容
⑴  無論、単に犯罪被害者等支援条例という名称の条例が制定されるだけでなく、条例及びこれに基づく支援計画の内容は、具体的で充実したものであることが求められる。
まず、犯罪被害者等基本法や基本計画においては、地方公共団体に対し、地域の状況に応じた施策を策定し実施するべき責務を負わせ(犯罪被害者等基本法第5条)、総合的かつ計画的な犯罪被害者等支援の促進が掲げられているところであり(第3次犯罪被害者等基本計画)、地方公共団体は、犯罪被害者等の権利を保障しその実現を図るために、主体的に取り組むことが要求されている。
また、実質的にみても、犯罪被害者等への支援は、徐々に拡充されてきたものの、十分というには遠く及ばない状況であり、支援を充実させていくためには、地方公共団体による支援が欠かせない。
すなわち、犯罪等による被害について第一義的責任を負うのは加害者であるが、加害者には十分な資力のない場合が多く、大多数の場合、犯罪被害者等が加害者から十分な賠償を得ることは難しい。
また、国が定めている「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」による給付金は、要件が厳しい上に、支給までの期間も平均約半年間を要し、金額も自動車事故における自動車損害賠償責任保険や政府保障事業の水準と比較してはるかに低額で、併給調整もなされるものにとどまっている。
かかる現状からは、犯罪被害者等の被害回復に関する制度として、上記給付金を更に充実したものにする必要があることはもとより、地方公共団体においても、経済的支援の施策を導入することが是非とも必要である。
⑵ この度公表された「福島県犯罪被害者等支援条例(案)」によれば、犯罪被害者等支援に関する施策を推進するための必要な財政上の措置については「(県が)講ずるよう努めるものとする」と規定されるにとどまり(第11条)、基本的施策として挙げられている犯罪被害者等に対する経済的負担の軽減のための施策についても、「経済的な助成に関する情報の提供、助言その他の必要な施策」にとどまり、犯罪被害者等に対する給付等の具体的な経済的支援策は定められていない(第18条)。
そこで、犯罪被害者等が受けた被害の回復及び生活再建を支援するためには、支援計画において、犯罪被害者等に対する見舞金の支給制度、国が支給する上記犯罪被害者等給付金が支給されるまでの貸付金制度等の経済的支援の施策を定めることが必要である。
また、同じく「福島県犯罪被害者等支援条例(案)」においては、日常生活の支援、心身に受けた影響からの回復、安全の確保、居住の安定、雇用の安定等についても、基本的施策として挙げられている(第13条ないし第17条)。
これらの施策についても、支援計画の中において、犯罪被害者の初診料・診断書料・緊急避妊投薬料・カウンセリング費用等についての公費による支出、二次被害防止等のための県営住宅への優先的入居制度や緊急避難場所を確保するためのビジネスホテル等の宿泊費用の援助等の具体的施策を定めることが必要である。
さらには、「福島県犯罪被害者等支援条例(案)」においては、民間支援団体に対する支援についても基本的施策として挙げられているところ(第26条)、犯罪被害者等の支援にあたっては、民間支援団体が重要な役割を果たしていることから、支援計画では、民間支援団体の財政基盤の確保に関する具体的な施策についても定めることが必要である。
⑶ 全国の地方公共団体には、犯罪被害者等支援条例及び支援計画等において、これらの経済的支援の施策を定めている地方公共団体が多数存在するところであり、県と市町村のいずれにも条例があるところでも、県の豊富な人材や予算を生かして、県において経済的支援の施策を定めているところも存在する。
とりわけ、福島県内には、未だ条例が制定されている市町村は一つもないことから、地方公共団体による犯罪被害者等の支援を早期に実現するためにも、まずは、県の条例及び支援計画において、充実した経済的支援の施策を定めることが肝要である。

3 結論
以上から、当会は、福島県に対し、犯罪被害者等支援条例及び支援計画におい
て、犯罪被害者等への充実した具体的な経済的支援の施策を定めることを求める。
また、市町村は、住民の生活に密着したサービスの多くを担っており、犯罪被害者等の生活場所とも最も近い存在であるから、福島県内の全ての市町村に対しても、犯罪被害者等の支援に特化した条例を制定し、専門的な職員を配置した総合支援窓口の設置、既存の住民サービスの犯罪被害者等支援への活用、犯罪被害者等を対象とした新たなサービスの整備、簡易かつ迅速な手続による生活費の支給等の施策を定めることを求める。
当会は、関係機関と連携し、犯罪被害者等支援条例及び支援計画等の制定に向けて、最大限の協力と支援を行っていく所存である。

2021年(令和3年)9月14日
福島県弁護士会
会長    吉 津  健 三

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