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契約書面等の交付を電磁的方法による提供をもって代替する特定商取引に関する法律等の改正に反対する声明

契約書面等の交付を電磁的方法による提供をもって代替する特定商取引に関する法律等の改正に反対する声明

 

 現在開会中の第204回通常国会に、内閣から「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律案」が提出され、現在審議されている。この法律案は、「消費者の脆弱性につけ込む悪質商法に対する抜本的な対策強化、新たな日常における社会経済情勢等の変化への対応のため」(法案概要における説明)、主として特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号、以下「特商法」という。)及び特定商品等の預託等取引契約に関する法律(昭和61年法律第62号、以下「預託法」という。)について、改正を施すものであるという。このうち、通信販売の詐欺的な定期購入商法等に対する規制を行い、また販売預託を原則禁止にすることについては、消費者被害対策として歓迎すべきものである。しかし、契約書面等、事業者が義務づけられている書面等の交付について、一定の条件下で、電子メールの送付等の電磁的方法(以下「電子メールの送付等」という。)により行うことを可能とする点については、容認できない。

 この法律案によれば、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売契約、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引及び訪問購入(以上、特商法)、並びに預託等取引契約(預託法)において、事業者は消費者に対して、遅滞なく、契約内容等の内閣府令に定める事項を記載した書面を交付しなければならないところ、政令で定められる方法による消費者の承諾を得たときには、この書面に代えて、内閣府令によって定められた電子メールの送付等により提供することができ、これを行った場合には前記の書面交付があったものとみなされることとなる。

 特商法は、既に通信販売の場合に契約書面等の交付に代わる電子メールの送付等による提供を解禁しているが、これはインターネットを利用した通信販売のように、契約過程上のやり取りがインターネットを介した方法で行われる取引において、契約書面等も電子メールの送付等による提供を認めることによって、契約過程上のやり取りが完全にインターネット上で完結することに途を開き、もってこのような方法を利用することにある程度習熟した消費者の利便性を確保することにその目的があった。本改正案は、契約書面等の交付に代わる電磁的方法による提供を、この目的に沿う完全オンラインの語学教室(特定継続的役務提供)等についてのみならず、契約過程上のやり取りがインターネット上では完結し得ない取引類型(たとえば訪問販売及び訪問購入では事業者の消費者に対する現実の訪問が予定されており、また、電話勧誘販売では事業者の消費者に対する架電が予定されている)等にまで拡大して解禁するものである。しかし、交付に代わる電子メールの送付等による提供をしたところで、このような取引類型の性質上、インターネットを介さない方法によるやり取りが残るのであって、インターネット上で完結するといった有意な利益が得られることはない。

 むしろ、訪問販売、訪問購入及び電話勧誘販売といった取引類型に契約書面の電子メールの送付等による提供を認めれば、必ずしもデジタル端末等の操作方法に習熟しているとはいえない消費者が、かえって被害にあう事態も想定される。具体的には、契約内容の重要部分を記載したものであって、かつ、その交付がクーリング・オフ権の行使期限の起算点とされる契約書面等について、たとえば事業者に誘導されるままに、その場限りでしか用いないようなフリーのメールアドレスを取得させられ、当該アドレスへの送信による提供に承諾させられることによって、契約書面の電子メールの送付等による提供の体裁を整えられ、後日、消費者が契約内容を確認できず、クーリング・オフ権も失うといった事態が発生しかねない。

 このような極端な事態をさておくとしても、個人端末の耐久性や機種変更の頻度等の実態に鑑みれば、電子データは紙媒体よりも保存に優れているとはいえず、消費者による後日の契約内容の確認を難しくする可能性は高い。また、電子データは、その性質上物理的及び法的に本人以外のアクセスが制限されていることから、紙媒体に比して家族等の他者の目に触れる可能性が低くなり、したがって仮に消費者被害が発生していたとしても、発見されない又は発見が遅れ、適切な被害回復の機会を失わせることがあり得る。こと消費者の利益の保護の観点からは、なお契約内容を紙媒体に記載することを法律上義務づけることに意義があるのであって、いかにデジタル化という政策目的があったとしても、紙媒体の交付義務を容易に回避できるようにすることを認めるべきではない。

 以上のように、消費者の利便性に資する場面は、契約過程上のやり取りが全てインターネット上で完結するごく限られた一部の取引の場合のみであるにもかかわらず、本改正案のうち、契約書面等の交付を電子メールの送付等による提供をもって代替することを認める改正部分は、かえって消費者が契約内容を確認し再検討する機会を失わせる可能性があり、当該契約に対する特商法等で認められた権利行使の妨げとなり得、また、消費者被害が生じた場合にこれを拡大助長させる懸念材料となるものであって、消費者被害の発生しやすい取引類型の公正性の担保により消費者の利益を保護し損害を防止するという特商法及び預託法の目的に反するものである。

 よって、当会は、契約書面等の交付を電子メールの送付等による提供をもって代替する特商法及び預託法改正に強く反対し、法案中、同部分の撤回又は同部分の削除をする修正を求める。

2021年(令和3年)5月13日

福島県弁護士会

会  長  吉   津   健   三

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