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東京電力福島第一原子力発電所事故被害者の集団訴訟についての控訴審判決を受けての会長声明

2020年(令和2年)9月30日、仙台高等裁判所において、標記訴訟(通称「生業訴訟」。以下「本件訴訟」という。)の控訴審判決が言い渡された(以下「本判決」という。)。本件訴訟は、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)の被害者である福島県及び隣接県の住民ら約3600名が、国と東京電力ホールディングス株式会社(以下「東電」という。)を被告とし、損害賠償等を求めて提起したものである。本判決は、本件事故被害者による集団訴訟のうち、東電のみならず国も被告とする訴訟として初めての控訴審判決であった。

本判決は、一審判決と同様、本件事故についての国及び東電の法的責任を明確に認めた。

まず、事故の予見可能性に関しては、「遅くとも平成14年末頃までには、10mを超える津波が到来する可能性について認識し得た」とし予見可能性を認めた。また、結果回避可能性についても、防潮堤の設置、重要機器室やタービン建屋の水密化等の対策により本件事故という結果の回避が可能であったことが事実上推認されるとして、国と東電の過失責任を認めた。

さらに、国の責任について「不誠実ともいえる東電の報告を唯々諾々と受け入れることとなったものであり、規制当局に期待される役割を果たさなかった」として、国の本件事故についての法的責任を厳しく指摘した。

本判決が、国と東電の責任を明確に認めたことは、事故の再発防止や被害者の全面的な救済のみならず、被災地の復興にとっても大きな意義がある。高等裁判所においてかかる明確な司法判断が下されたことを受け、国及び東電は、自ら本件事故についての責任を認め、これを前提として、被害者の生活再建支援などの施策を実行すべきである。

本判決は、東電の義務違反の程度は、決して軽微といえない程度であったというべきであり慰謝料の算定にあたって考慮すべき要素の一つとなるとし、国及び東電は損害全体について損害賠償債務を負うとした。その上で、①避難指示等の対象区域に居住していた原告については、一審判決が事実上否定した「ふるさと喪失損害」を認め、一審判決と比較し賠償額を増額した。また、②避難指示等の対象区域外に居住していた原告についても、一審判決よりも広い範囲について損害賠償を認めた。

この点、一審判決においても、原子力損害賠償紛争審査会の「中間指針」やこれを受けた東電の自主賠償基準による賠償水準では不十分であるとし、賠償額の上積みや賠償を認める地域の拡大(横出し)を行っていたものであるが、本判決は、「中間指針」や東電の自主賠償基準に対して、さらに上積み・横出しを行ったものと評価できる。

本判決により、「中間指針」が、本件事故による損害の賠償基準として、極めて不十分であることが、さらに明確になったといわなければならない。また、本件事故から9年半余を経過したいま、本判決は、原子力損害賠償請求権の消滅時効にも影響を及ぼすこととなる。なぜなら、本件訴訟における原告らの請求は、各人の個別事情によらない包括一律の請求であるから、仮に本判決が確定すれば、少なくとも理論的には、本判決により請求が認容された原告らと同地域に居住していた被害者については、既払額を上回る賠償が認められる可能性があるところ、あと半年で消滅時効が完成し、請求ができなくなってしまう可能性があるからである。

当会は、本件訴訟の一審判決を受けて発出した2017年(平成29年)10月11日付会長声明(「東京電力福島第一原子力発電所事故被害者の集団訴訟についての福島地裁判決を受けての会長声明」)において、国と東電に対し、本件事故及びその被害についての加害責任を自ら認めること、賠償はもとより環境回復等を含めた被害者の救済のために全力を尽くすことを求めたところである。また、当会は、2019年(令和元年)10月16日付会長声明(「原子力損害賠償請求権の時効消滅に対応するための立法措置を求める会長声明」)により、時効再延長のための立法措置を求めたところである。

当会は、本判決を受け、国及び東電に対し、これらの会長声明における要求事項を改めて求めるとともに、原子力損害賠償紛争審査会に対し、改めて被害実態の調査を行い、「中間指針」の見直しに着手することを強く求めるものである。

 

2020年(令和2年)10月6日

福島県弁護士会

会長   槇    裕  康

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