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原発事故損害賠償請求権の時効消滅に対応するための立法措置を求める会長声明

1 問題状況
 2011年(平成23年)3月11日に発生した東京電力福島第一発電所事故(以下「本件原発事故」という。)による被害者の損害賠償請求権については,原子力損害賠償法(以下「原賠法」という。)の規定に従って行使される。そして,原賠法は,民法の不法行為の特則と解されているため,民法724条により,「被害者…が損害及び加害者を知った時から3年間」の消滅時効期間に服し,また「不法行為の時から20年」で行使ができなくなる(20年間の期間は除斥期間と解されている)のが原則である。
 しかし,本件原発事故は近代史上まれに見る広範かつ深刻な被害をもたらし,本件事故により強制的に避難を余儀なくされた被害者だけでも10万人を超えるものであって,これらの被害者が,すべての損害を加害者である東京電力ホールディングス株式会社(以下「東電」という。)及び国に対し,上記消滅時効期間内に自らの損害の賠償を求めることは容易ではない。
この点,東電は,2013年(平成25年)2月4日に公表した「原子力損害賠償請求権の消滅時効に関する弊社の考え方」において,消滅時効の起算点について「東電が賠償請求の受付を開始した時」とし,また,被害者が東電から賠償請求を促すダイレクトメール等を受領した時点で時効中断とするなど,「柔軟な対応」をする旨の公表をしていたが,被害の広範さ,深刻さ,また被害者の賠償請求権行使の困難さなどを考慮し,当会が公表した同年4月22日付「東京電力福島第一原子力発電所事故により発生した損害賠償請求権につき3年の消滅時効の適用を排除する立法措置を求める会長声明」をはじめ,日本弁護士連合会,各弁護士会連合会,各単位弁護士会(以下「日弁連等」という。),弁護団・原告団,支援団体等が立法措置を求める運動を行い,その結果,国会において東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例に関する法律(以下「時効特例法」という。)が成立,同年12月に施行された。これにより,本件原発事故による損害賠償請求権の消滅時効期間については,「10年間」とされ,また上記除斥期間の起算点についても「損害が生じた時」とされた。
 しかし,この時効特例法によっても,本件原発事故直後に発生した損害の賠償請求権については2021年3月以降,消滅時効が完成することになる。現時点においては,本件原発事故から8年以上を経過しており,あと2年以内に,少なくとも法律上は,被害者らの賠償請求権の一部について順次時効消滅する可能性が迫っている。

2 当会のこれまでの取組み
 この点,当会においては,上記のとおり,時効特例法の成立に至るまでの間,上記会長声明を発出するとともに,日弁連等と連携し時効特例法の成立に向けた要請活動等を行ってきたところである。
 その後,当会が本年3月11日に公表した「東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故から8年を迎えるにあたっての会長声明」において,「特例法の国会審議の過程では,衆議院文部科学委員会において,全会派一致で『政府は…当該原子力損害の状況及び当該原子力損害の賠償の請求その他の賠償の実施の状況について定期的に確認し,その結果等を総合的に勘案して,必要があると認めるときは,当該原子力損害の賠償請求権に係る事項に関する法制上の措置を含め,所要の措置を講ずること』とする決議がなされているところであり,内閣及び国会は,この決議に従い,賠償実施状況の詳細な確認や時効期間の再延長も含めた法的措置等についての検討を行うべきである」として,国に対し,「賠償実施状況の詳細な確認や時効期間の再延長も含めた法的措置等についての検討」を求めた。

3 時効期間の再延長等の必要性
 本件原発事故による損害賠償については,極めて多数の被害者が存在すること(原子力損害賠償紛争審査会の指針等で賠償請求が認められた被害者は100万人以上にのぼる),個々の被害者に性質や程度の異なる損害が同時に,かつ日々継続的に発生していること,長期の避難生活等の事情により,損害額の把握やその算定の基礎となる資料収集に支障をきたす被害者が存在すること,ことに不動産等の賠償については,数次にわたる相続関係の処理等に長期間を要する事例があることなど,一般的な不法行為に基づく損害賠償とは異なる特殊性がある。このような特殊性からすれば,被害者が自らの損害をもれなく請求することは極めて困難であり,特例法による時効期間の特例にもかかわらず,このまま推移すれば賠償請求権が時効により消滅してしまうという事態が生じることが強く懸念されるところである。また,本件原発事故は,交通事故など,互換性のある市民間において,その活動に伴って発生した損害の公平な分担(および法律関係の早期安定)が問題となる場面とは異なり,当会がこれまで繰り返し指摘しているように,原子力発電を「国策」として推進し,安全対策を怠ってきたことから生じたものであり,加害者と被害者との間の互換性は全くなく,消滅時効の制度趣旨である法律関係の早期安定という要請は低い。
 このようなことからすれば,時効期間の再延長等を求める必要性は極めて高いと言わなければならない。
もちろん,かかる立法措置を行うにあたり,他の不法行為による賠償請求権の時効期間(現行民法では,「損害及び加害者を知った時から3年」)との均衡の点は問題となり得る。しかし,2020年(令和2年)4月1日より施行予定の民法(債権法)改正(724条)では,生命・身体の侵害による損害賠償請求権の期間制限については,保護法益の重要性及び被害者保護の観点から,「損害及び加害者を知った時から5年」「不法行為の時から20年」とされ,いずれの期間についても除斥期間ではなく消滅時効期間とされている。このことからは,本件原発事故による損害賠償請求権の消滅時効期間を「損害が生じた時から20年」[1]とするような改正は,必ずしも現在の法体系と著しく整合性を欠くものでもない。

4 結論
 上記の理由により,当会は,国に対し,時効期間の再延長のための立法措置(時効特例法の改正等。例えば,消滅時効期間を「損害が生じた時からから20年」とするなど)を求める。

2019年(令和元年)10月16日
福島県弁護士会
会長  鈴 木 康 元

[1] 改正民法724条との整合性を重視すれば,「不法行為の時から20年」とすることも考えられるが,晩発性の健康影響等を想定すれば「損害の発生から20年」などとするのが相当であると思料する。

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