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女性の被疑者・被告人の人権を擁護するため、福島県内の女性用留置施設の集約化を撤回して勾留場所の適正配置を行うこと及び勾留場所は被疑者・被告人の性別に関わらず刑事施設(刑務支所・拘置支所)とすることを求める決議

決議本文
当会は、女性の被疑者・被告人の人権を擁護するため、次の事項を求める。
1 警察庁、福島県警察本部及び法務省に対し、福島県内の女性の被疑者・被告人を郡山北警察署の留置施設1か所に集約する運用を撤回し、勾留場所の適正配置を行うこと
2 裁判官及び検察官に対し、被疑者・被告人の勾留場所は、その性別に関わらず刑事施設(刑務支所・拘置支所)とすること

提案理由
1 女性用留置施設の集約化の現状
近年、全国各地において女性の被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)を身体拘束する警察署の留置施設の集約化が進められている。
現在判明しているところでは、女性用留置施設が都道府県に1か所のみなのは、秋田、岩手、福島、山梨、富山、福井、鳥取、徳島、香川、愛媛、高知、佐賀、大分、宮崎の14県警であり、近年、増加傾向にある。

2 福島県における集約化の事実経過
福島県警察本部(以下「福島県警」という。)は、2022年(令和4年)5月、全国において留置担当官が身体拘束中の女性の被疑者等とわいせつ行為を行ったとして逮捕される事案が連続して発生したことから、適正処遇のために女性用留置施設を集約し、原則として郡山署、福島署、会津若松署、いわき中央署のいずれかに身体拘束するものとした。
警察庁は、2023年(令和5年)12月1日付け「『留置管理業務推進要領』の一部改正について(通達)」により、各都道府県警に対し、適切な留置管理体制の構築のため、女性専用留置施設(女性の被疑者等のみを留置し、女性警察官が常時看守業務に従事する留置施設をいう。)の設置を推進することを指示した。
同指示を受けて、福島県警は、2024年(令和6年)3月、郡山北警察署を女性専用留置施設に指定し、原則として、女性の被疑者等は同署に留置するものと決定し、運用が開始された。
これにより、福島県内に4つあった女性集中留置施設は廃止され、郡山北警察署の女性専用留置施設1か所に、福島県内の全ての女性の被疑者等が身体拘束されることとなったのである(以下「本件集約化」という。)。
福島県警が当会に本件集約化の事実を初めて伝えたのは、2023年(令和5年)12月4日のことであり、本件集約化について協議する余地は与えられなかった。
本件集約化は、地元弁護士会との協議や調整もなく一方的に開始されたものであり、弁護活動に様々な制約を生じさせることとなった。また、被疑者等とその家族との面会が困難となるとにより、突如として日常生活を奪われる被疑者等の精神的・経済的な負担等の緩和も困難となっている。

このように、本件集約化は、女性の被疑者等の人権を大きく制約するものとなっている。

3 被疑者等の弁護人の援助を受ける権利、弁護人の防御権の確保の重要性
被疑者等が弁護人の助言を得ることは憲法上の権利であり、最大限尊重されなければならない(憲法34条前段)。この弁護人依頼権に由来する権利として、弁護人との接見交通権が定められている(刑事訴訟法39条1項、平成11年3月24日最高裁判決「安藤・齋藤国賠事件」)。
そして、弁護人が、被疑者等に対して、取調べの対応について適切な助言をし、あるいは、公判準備を行う必要上、弁護人が、被疑者等と十分に接見を行う機会を担保する必要がある。
しかし、本件集約化により、選任される弁護人の執務地域(例えば福島市やいわき市)と勾留場所(郡山市)が地理的に隔絶され、移動に長時間を要することから、結果的に接見回数や接見時間が制限されることになった。
当会の管内は、降雪により交通途絶となる地域もあり、交通手段も限られる状況であるため、弁護士が、接見のために長時間の移動を強いられる状況になれば、接見回数が結果的に制限されることになるのは自明である。現に次に言及するアンケート結果でも、同種の国選事件との接見回数を比較すると減少しているという意見が目立っている。
このように、地域特性を考慮することもせず、安易に本件集約化を実施したことは、女性の被疑者等の人権保障の見地から、到底看過することはできない。

4 アンケート結果から見える本件集約化による接見交通権等の侵害
(1)当会は、2024年(令和6年)7月11日~26日まで、会員に対し、本件集約化により生じた問題点を整理し、改善を図ることを目的としてアンケートを実施し、47名の会員から回答を得た(以下「本件アンケート」という。)。
本件アンケートの回答者のうち43名が、女性用留置施設の集約に反対しており、これに賛成する者はいなかった。反対の主な理由は、①接見に伴う移動時間の増大が女性の被疑者等の防御権の侵害になること(具体的には後記⑵ア乃至エ)、②家族等が被疑者等と面会することが困難になることにある(具体的には後記⑶)。
(2)ア 全国では北海道、岩手県についで3番目の広さを有する福島県に女性用留置施設が1つしかないことの弊害は極めて大きい。
郡山支部を除く県内各支部の事務局所在地から郡山北警察署までの片道距離は下記のとおりであり、いずれも相当な遠距離である。


福島支部     58.9km
会津若松支部   59.5km
白河支部     46.2km
相馬支部     106km
いわき支部    81.6km

本件集約化前のように、女性の被疑者等が4地域の警察署に留置されていた状況であれば、各支部の弁護士は早ければ10分程度で勾留場所に赴くことができた。
しかし、女性の被疑者等が郡山北警察署に留置されることになり、郡山支部以外の弁護人のほとんどが、移動時間に片道1時間以上費やすこととなり、女性の被疑者等の接見に要する時間が大幅に増加した。
イ 郡山北警察署の面会室は1室しかなく、弁護人又は弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)による接見が競合し、待たされることも珍しくない。本件アンケートの回答によると、1時間以上待たされた会員や接見を断念した会員がいた。
ウ 移動時間がかかり、適時に接見に行くことが難しくなった結果、ホームレスの被疑者の環境調整活動がうまくできず、再び路上生活に戻り、その9日後に万引きの再犯をして逮捕されたケースも発生している。
エ 外国人事件の場合、通訳人との予定を合わせることが難しくなり、接見の日程調整が難しくなったという回答もあった。
(3)被疑者等の家族からも、移動に伴う負担が大きいという意見が出されている。
只見町役場(南会津郡)と郡山北警察署までの片道距離は133.4km、いわき市勿来支所との片道距離は93.1km、新地町役場(相馬郡)との片道距離は114.4kmであり、いずれも相当な遠距離である。
弁護人から寄せられた被疑者等の家族や関係者からの声として、「長時間かけて長距離移動してきたのに、取調べなどのために会えなかった場合の負担が大きい。生活保護受給者の場合は経済的な面から接見が制限されてしまう。」、「夫が福島市から平日毎日被疑者に会いに面会に行っており、面会だけで半日潰れてしまう。経済的にも余裕がなく、精神的にも追い詰められているようだった。」というものがあった。
身体拘束をされた被疑者等にとって、家族や支援者との面会は身体拘束による苦痛を和らげるものであり、無罪推定の原則からすれば、法律で認められた場合を除き面会を制限されるいわれはない。とりわけ貧困により旅費が捻出できないことを理由として身体拘束された家族と面会ができないという事態は避けられるべきであるが、本件集約化以後、実際に貧困により身体拘束された家族と面会ができない事態が発生している。
(4)本件アンケート結果からは、本件集約化によって女性の被疑者等と弁護人等との迅速な接見が妨げられている実態が浮き彫りとなっている。
本件集約化は、被疑者等に認められた接見交通権を実質的に侵害するものである。

5 本件集約化は性別を理由とする差別に該当し、平等原則に反すること
被疑者等のうち女性のみが、その性別を理由として本件集約化がなされたが、その区別取扱いについて合理的根拠が認められない場合には憲法14条1項で定められた平等原則に反することとなる。
福島県警は、本件集約化を実施する理由として、警察署の留置担当官による女性の被疑者等に対する性犯罪を防ぎ処遇改善を図ること、身体拘束を要する女性の被疑者等が減少していることが理由であると当会に説明をした。
留置担当官による性犯罪を防ぐという観点から言えば、留置担当官に対する指導教育体制の確立強化、適切な予算と人員確保と配置、職員に対する監視体制の強化等といった女性の被疑者等に不利益を課さない手段を取ることにより対応すべきである。女性の被疑者等の性被害を防止するために、女性の被疑者等に対して不利益を課すことは本末転倒である。
さらに、身体拘束を要する女性の被疑者等が減少していることから県内1か所に集約することとしたとの説明には、女性の被疑者等の人権へ配慮がいささかも感じられない。
福島県警の説明は、もっぱら警察の内部事情によって本件集約化を導入したことを明らかにするものであり、性別を理由とする区別取扱いの合理的根拠を認めることは困難である。
そのため、本件集約化は、平等原則に反するものといえる。

6 勾留場所は代用監獄ではなく刑事施設(刑務支所・拘置支所)とすべきこと
そもそも、刑事訴訟法上、被疑者等を勾留すべき場所は刑事施設(法務省の管轄する刑務支所・拘置支所)である。警察署の留置施設は、逮捕段階の一時的に留め置く場所としてのみ利用されるべきものであって、本来の勾留場所ではない。あくまでも代用刑事施設でありいわゆる代用監獄(以下「代用監獄」という。)にすぎない。
代用監獄は、捜査と留置の分離が一応なされているとはいえ、捜査当局自身が被疑者等の身体を拘束し、管理し、全生活を支配するという危険性が必然的につきまとう。代用監獄への勾留を圧力として利用した取調べは、例えば大川原化工機事件(令和3年8月2日東京地裁公訴棄却決定)にみられるとおり、今も行われ続けている。そのため、被疑者等の勾留場所は、捜査当局と分離された刑事施設が適しているのである。
その刑事施設に関して、近年、県外の刑事施設の収容停止・廃止も行われているが、廃止すべきは代用監獄であり、刑事施設は廃止ではなく増設されるべきである。
福島県内の女性の被疑者等の勾留場所としては、女性専用刑事施設である福島刑務支所のほか、県内各所に女性の被疑者等を収容可能な拘置支所があり、代用監獄である郡山北警察署以外にも、女性の被疑者等の勾留場所として使用可能な刑事施設が存在している。
本件集約化は、先に述べた女性の被疑者等の人権を侵害することに加え、勾留当初の時点で刑事施設を用いることの可否を一切検討しないまま、違法不当な捜査の温床となり得る代用監獄を用いるものである点でも不当である。
警察署の留置施設の増設ができないのであれば、刑事訴訟法の趣旨に立ち返り、性別に関わらず、被疑者等の勾留は代用監獄ではなく刑事施設で行うべきである。

7 まとめ
以上より、福島県内の女性用留置施設を1か所に削減する本件集約化は、接見交通権を侵害し、平等原則にも反するものであることから撤回されるべきであり、勾留場所の適正配置が行われるべきである。
そして、勾留場所は、代用監獄ではなく刑事施設とされるべきである。

以 上
2025年(令和7年)5月30日
福島県弁護士会

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