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生活保護制度における義援金等の収入認定について適正な取扱いを求める会長声明

1. 東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所・同第二原子力発電所事故(以下,「原発事故」という。)により,浜通りを中心に,県民が長期間の避難を余儀なくされるなど,県民生活には,計り知れない被害がもたらされている。これは,生活保護受給者(以下,「被保護者」という。)も例外ではなく,浜通りを中心とする地域において,住宅の倒壊・流出や,原発事故で放出された放射性物質による環境汚染によって,被保護者が避難や避難の準備を余儀なくされるなどしている。

このような状況の下,県内の被災者に対しては,義援金の第一次配分や東京電力による仮払補償金の支給が進みつつある。

2. しかし,県内の一部自治体では,被保護者が義援金や仮払補償金,生活再建支援金等を受給した場合,これを被保護者の収入として認定することを前提に,生活保護の停廃止をほのめかすなどの動きが見られる。

例えば,浜通りの自治体の生活保護担当者が,被保護者に対し,義援金や仮払補償金等を受給したことを理由に,「来月か再来月から生活保護の支給が停止されることになると思う」などと告げた旨の報告が当会の複数の会員から寄せられている。また,福島県相双保健福祉事務所長は,本年5月18日付で各被保護者に対し,「生活保護制度における義援金等の取扱いについて(通知)」との書面を交付しているが,この通知によれば,義援金等から自立更生のためにあてられる額を控除した額を収入認定し,収入認定額及び年金等で一定期間(6か月)生活可能な場合には生活保護が廃止となること,義援金や東京電力仮払補償金が6月8日までに支給された場合,義援金等収入申告書及び自立更生計画書を同日までに提出しなければならないこと等が記載されている。

3. 義援金や仮払補償金等のうち,少なくとも義援金については,住居の再築・修繕,家具や生活用品の購入,移転費用など被災者の生活基盤の回復に利用すること,あるいは被災したこと自体に対する慰謝や弔慰を趣旨として支給されるものであり,本来,その全額が自立更生にあてられるべきものないし社会通念上収入認定になじまないものであると考えるべきである。こうした点から,平成7年の阪神淡路大震災の際には,義援金のうち,第一次配分された金額については,全額収入認定しないという取扱いがなされた。また,細川厚生労働大臣は,本年4月14日の衆議院厚生労働委員会において,「(義援金)について,収入とはならないということで処理をされていくものだというふうに思っております」と答弁している。

4. この点,生活保護制度の運用について定めた厚生労働省事務次官通知「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知。以下,「厚労省次官通知」という。)は,第8の3の(3)項において「ア 社会事業団体その他(地方公共団体及びその長を除く)から被保護者に対して臨時的に恵与された慈善的性質を有する金銭であって,社会通念上収入として認定することが適当でないもの」「オ 災害等によって損害を受けたことにより臨時的に受ける補償金,保険金又は見舞金のうち当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」については,「収入として認定しないこと」と定めている。また,自立更生の具体的内容については,生活保護担当職員の手引書である「生活保護手帳」は,生活基盤の回復に要する経費や治療費のほか,生業の開始・継続費用や技能習得費,介護費,就学・結婚・弔慰など,様々な費目が自立更生の内容に含まれることを認めている。

さらに,東日本大震災を受けて厚生労働省社会・援護局保護課長が発出した通知「東日本大震災による被災者の生活保護の取扱いについて(その3)」(平成23年5月2日付社援保発0502第2号。以下,「課長通知」という。)は,義援金等について,厚労省次官通知第8の3の(3)のオに該当することを前提に,「当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」を収入として認定しないこととし,その際,自立更生計画の策定については,「被災者の被災状況や意向を十分に配慮し,一律・機械的な取扱いとならないよう留意する」ことや,緊急的に配分される義援金等については,当座の生活基盤の回復に充てられることなどから,費目・金額を積み上げずに包括的に一定額を自立更生に充てられるものとして自立更生計画に計上してよいことなどの柔軟な取扱いを保護実施機関に求めている。

本来,義援金は,細川厚生労働大臣の上記答弁でも明らかなように,生活再建(自立更生)のためにあてられることが想定されたもの,ないし社会通念上収入認定になじまないものであるから,厚労省次官通知第8の3の(3)アに該当するものと言うことができ,その意味では,厚労省課長通知の取扱いは不十分と言える。上記福島県相双保健福祉事務所長通知(以下,「保健福祉事務所長通知」という。)等の取扱いは,不十分な厚労省課長通知に照らしても,一層問題があると言わざるを得ない。

5. すなわち,(1) 阪神淡路大震災の際と同じように,義援金のうち,少なくとも第一次配分されたものについては,全額を収入認定の対象とすべきではないが,保健福祉事務所長通知では,その点が明記されていない。また,(2) 保健福祉事務所長通知が短期間のうちに自立更生計画の提出を求め,認定された収入等で6ヶ月間生活できる場合には生活保護を廃止するなどとしている点は,いまだ原発事故が収束せず,被害が拡大している現状において,今後の生活基盤回復の見通しが立っていない被災者に対し,困難を強いるものであるとともに,生活保護の停廃止がされるのではないかとの不安を被保護者に与えるものであり,極めて不適切である。さらに,(3) 同通知には,包括的に一定額を自立更生計画に計上してよいという厚労省課長通知についての言及すらなく,あたかも,個別の費目だけが自立更生のためにあてられる費用であるかのような誤解を被保護者に与えかねない。元の居住地に帰還できるかすら見通しが立たない状況におかれた被災者が多い状況の下では,厚労省課長通知が明記するように,費目や金額を積み上げずに包括的に一定額を計上する方式が相当であると考えられる。

上記のような保健福祉事務所長通知や生活保護担当者の言動は,これまでの厚労省通知通達類にも反して生活保護行政の適正を欠き,被保護者に不安を与えるとともに,被保護者の生活再建に対する重大な障害となるものと言わざるを得ない。

6. よって,当会は,福島県及び県内生活保護実施機関に対し,緊急に,下記のような取扱いをすることを求める。

(1)日本赤十字社を通じて被災者に支給される義援金のうち,少なくとも第一次配分にかかる金額については収入認定しないこととし,その旨各被保護者に通知すること。

(2)原発事故が収束せず,避難ないし避難準備をしている被災者の生活基盤回復の見通しが立たない現状に鑑み,少なくとも,避難者が元の居住地に帰還できるか否かの見通しが立つまでの間,避難ないし避難準備を余儀なくされている被保護者に対し,自立更生計画の提出を事実上強制するような取扱いを行わないこと。

(3)自立更生計画の策定や収入認定にあたり,個別の事情聴取により,各被保護者の生活実態や要望を十分に把握し,これらが最大限に自立更生計画に盛り込まれるよう配慮するとともに,義援金等のうち,包括的に一定額を自立更生計画に計上して差し支えないことについて,各被保護者に十分に説明し,被保護者に対して配布する自立更生計画の書式にもその旨明記すること。

以上

2011年(平成23年)06月06日
福島県弁護士会
会長 菅野 昭弘

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