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子どもたちの内部被ばくを可能な限り低減する措置を求める会長声明

1.2011年(平成23年)3月11日の東日本大震災に伴って発生した東京電力福島第一原子力発電所事故(以下,「原発事故」という。)により,大量の放射性物質が大気中に放出され,福島県在住者の多くが,放射性物質の舞い降りる中での暮らしを強いられてきた。原発事故は,発生からおよそ半年を経てなお収束の目途が立たず,放射性物質の漏出と放射線被ばくに対する不安は払しょくされていない。

2.放射線被ばくが人体に及ぼす確率的影響については,これ以下なら影響が生じないという「しきい値」はないとされており,国際放射線防護委員会(ICRP)も,この考え方に基づき,線量を合理的に達成できる限り低く保つという原則を提唱している。

この「できる限り低く」という原則は,対象が子どもの場合,特に厳格に考えられる必要があり,従って,子どもについては,成人の場合より更に積極的な放射線防護策が講じられなければならない。

なぜなら,子どもは,放射線に対する感受性が鋭敏とされるうえ,余命が長く,その分生涯の累積被ばく量が多くなるため,被ばくによる健康への影響が成人の場合にも増して強く懸念されるからである。

文部科学省も,子どもがそのような存在であることを考慮して,できる限り児童生徒等の受ける線量を減らしていくという基本的姿勢を明らかにし,そのうえで,2011年(平成23年)5月27日,学校における年間被ばく総量1mSvを目標とするとの通知を出している。

しかしながら,文部科学省が発表した3月12日から9月11日までの積算線量の推計値は,福島市南向台6.3mSv,福島市大波滝ノ入6.2mSv,福島市東浜町5.9mSv,郡山市豊田町5.8mSv等々,福島第一原発から30km以上離れた地域でも,事故後の積算線量の推計値が,すでに上記目標とされる1mSvを超える場所は多数存在する。これは,少なからぬ数の県内の子どもたちが,すでに文部科学省の基準を超える被ばくをしている可能性を窺わせるものである。

このような状況の下にある県内の子どもたちに対しては,今後,可能な限り,更なる被ばくを避けるための措置がとられなければならない。

3.現在,福島県及び県下の市町村において,一部の学校では,校庭の表土除去,高圧洗浄機による洗浄,教室へのエアコン導入,校舎,校庭及び側溝を含む通学路の大規模な洗浄作業等が実施され,また,児童生徒への線量計の配付,児童館,公園のような子どもたちの立ち寄り易い場所における放射線量の計測等もなされており,子どもの外部被ばくに対する防護の面は努力が積み重ねられてきた。

その一方で,内部被ばくについては,原発事故からこれまで,十分な現状把握,評価もなされず,積極的な防護措置が講じられないまま推移してきた経過がある。

内部被ばくは,放射性物質が人の体内に取り込まれ,人体内で発生する放射線がDNAを傷つけるもので,それによる人の健康への影響は詳細に研究されてはいないものの,その危険性は決して軽視されるべきではない。

内部被ばくは,経口,経皮,経気道(呼気)の各過程で発生するが,この中,経皮・経気道(呼気)によるものへの対策は,外部被ばく量の低減策と共通する部分が多く,本項冒頭で述べた県及び県下の市町村における様々な対応策の継続が有効である。

これに対して,経口による内部被ばくは,主として放射性物質に汚染された飲食物の摂取により生じるものであるから,防護策としては,基本的に汚染された飲食物の摂取を避けることしかないが,子どもに対する経口被ばく対策は,以下に述べるとおり未だ不十分なレベルにある。

(1)第一に,現在使われている我が国の食品の暫定規制値は,チェルノブイリ原発事故による汚染区域を抱える諸国の放射線基準値と比べても,緩やかに過ぎる。

すなわち,国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication111(原子力事故又は放射線緊急事態後における長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用)によれば,現在のベラルーシ共和国の飲用水の汚染限度は10Bq/L(セシウム137),同じく芋類は80Bq/Kg(セシウム137),果物は40Bq/Kg(セシウム137)とされている(ICRP Publ. 111 日本語版・JRIA暫定翻訳版による)。また,今中哲二氏(京都大学原子炉実験所)編集による「チェルノブイリによる放射能災害国際共同研究報告書(1998年10月)」によれば,ウクライナ共和国の飲料水の許容濃度は2Bq/L(セシウム137),野菜(根菜・葉菜)が40Bq/kg(セシウム137),果物が70Bq/kgとされている。これに対し,我が国の暫定規制値は,飲料水が200Bq/L(放射性セシウム),野菜類は500Bq/kg(放射性セシウム)である。

更に,上記Publication111によれば,ベラルーシ共和国では,ベビーフードの汚染限度が37Bq/kg(セシウム137)と,一般の食品よりも低く定められているのに対し,我が国の暫定規制値では,わずかに牛乳・乳製品について,放射性ヨウ素が100Bq/kgを超えるものは、乳児用調製粉乳及び直接飲用に供する乳に使用しないよう指導することとされている(水道水については,厚生労働省の摂取指標値が,乳児の場合100Bq/kg(放射性ヨウ素)と定められている)のみで,その他に子どもについて成人より厳格な基準を定めたものはない。

我が国でも,食品の放射線基準値は上記の国々の基準値を目標として設定されるべきものであり,特に子どもについては,到達可能な最高水準の健康を享受することについての児童の権利を認めた児童の権利に関する条約第24条に照らし,成人よりも厳格な基準が設定されるべきものである。

今回の原発事故について,現在の状況は,東京電力が作成したいわゆる工程表によれば「放射線量が着実に減少傾向になっている」ことを目指すステップ1が終了し,「放射性物質の放出が管理され,大幅に抑えられている」が目標のステップ2に入っている。また,政府は今月30日にも「緊急時避難準備区域」の指定を一斉に解除する方針とされている。

福島県のホームページで公開されている農林水産物モニタリング情報検索システム(http://www.new-fukushima.jp/monitoring.php)によれば,2011年(平成23年)4月以降の福島県産農林水産物のモニタリング件数とそのうち暫定規制値を超過した件数の推移は

モニタリング件数 うち暫定規制値を
超過した件数
4月 574件 79件
5月 826件 78件
6月 961件 61件
7月 1,191件 30件
8月 1,494件 24件

であり,福島県産の農林水産物に含まれる放射性物質は減少傾向にあるものと見て取れる。

このような状況に照らせば尚更,我が国の食品の暫定規制値は早急に見直されるべきである。

近時,厚生労働省が乳幼児用食品について新たな基準値を設ける方向で検討しているとの報道がなされたが,この検討は速やかに実施され,子どもについて早急に厳格な基準が設定されるべきである。

(2)第二に,食材の検査体制の更なる整備が必要である。

現在のところ,市場に流通する前の一般の農畜産物について,地域毎のサンプリング調査がなされているが,前述の放射性物質の減少傾向にもかかわらず,新たに摂取制限あるいは出荷制限がなされるものもあり,農林水産物につき,更にきめ細かいモニタリング調査が実施されるべきである。

この点で問題となるのが,学校給食である。

現在,給食の食材そのものについての放射性物質の検査は実施されていないことが多いが,放射線防護は子どもたちの生命身体に関わる重要事項であり,かつ,長期間にわたり低線量放射線に被ばくした場合の人体に対する影響については,専門家の間でも見解が分かれているという現状であり,保護者らは子どもが摂取する給食の安全について非常に大きな不安を有しているところである。

そもそも学校給食は,学校教育活動の一環として実施されているものであり,(特に公立学校の)学校教育制度が,国の責任により子どもの学習権を全国的に一斉に均等な条件で保障しようとするものである以上,放射性物質に汚染されていない清浄な食材を用いた給食であることもまた,全国的に一斉に均等な条件で保障されなければならない。

そのためには,速やかに,各給食センターあるいは自校方式による各給食施設に検査機器を導入する等の方法により,給食に使用される食材について,全て同一の精度により放射性物質の量を検査し,その結果を日々公表すべきである。

給食に使用される食材について全て同一の精度により放射性物質の量を検査することにより,清浄な食材を用いた給食であることが初めて保障されるのであり,また,その検査結果を公表することにより,初めて保護者らの不安は解消されるのである。

(3)更に,子どもの被ばくに関しては,小さい子どもであればあるほど,その被ばくによってもたらされる影響が大きいとされていることに照らせば,小・中学校に通う児童生徒より更に小さい子どもたちが通園・通所する施設において提供される食事類についても,上記(2)と同程度かそれ以上の措置がとられるべきである。

4.以上を踏まえ,当会は,東京電力,国,福島県及び県内各市町村に対し,早急に下記の対応を求めるものである。

(1)国は,我が国の食品の暫定規制値を早急に見直し,特に,子どもについては成人より厳格な基準を設定すること。

(2)国,福島県及び県内各市町村は,その責任と東京電力も含めた費用負担において,速やかに,各給食センター及び自校方式による各給食施設に検査機器を導入する等の方法により,給食に使用される全食材について,全て同一の精度により放射性物質の検査を実施し,その結果を日々公表すること。

(3)国,福島県及び県内各市町村は,その責任と東京電力も含めた費用負担において,就学前の子どもたちが通園・通所する施設で提供される食事類についても,上記(2)と同程度かそれ以上の措置をとること。

以 上

2011年(平成23年)09月29日
福島県弁護士会
会長 菅野 昭弘

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