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児童生徒等の被ばくを極力回避・抑制すべく、幼稚園、保育園及び小中学校の屋外活動実施について慎重な判断を求める緊急要望書

1. 文部科学省は、平成23年4月19日に「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について(通知)」(以下、「本通知」という。)を発し、当会はこれを受け、平成23年4月25日付で、国及び福島県に対し、「福島県民、とりわけ子ども達の安全・安心な未来を確保するよう求める会長声明」を発した。

この声明において、当会は、①国及び福島県は、福島県内各地の放射線量に応じて、汚染された土壌の除去、除染、客土等の対応を検討すること、②特に、幼稚園、保育園及び小中学校の園庭、校庭について、子ども達が被ばくすることを極力抑制するため優先的に対応を検討し、この検討及び作業が終了するまでは、少なくとも園庭、校庭等における屋外活動を禁止すること、③そのうえで、引き続き福島県内すべての幼稚園、保育園及び小中学校について、空間線量率や、大気中の放射性物質濃度、土壌の放射性物質に関し、複数の専門機関による詳細なモニタリングを行い、依然として高い放射線量が計測される幼稚園、保育園及び小中学校については、代替施設による屋外活動あるいは学園、学校活動が可能となるよう必要な措置を講じることを、それぞれ求めた。

2. その後、4月27日から、郡山市が放射線量の高い校庭の表土除去工事を実施し、伊達市も校庭の表土除去工事を実施したほか、二本松市、本宮市及び大玉市の三市は、全ての幼稚園、保育園及び小中学校の園庭、校庭の表土除去工事を実施することを決定している。また、福島市内の国立幼稚園において、上下置換工法による表土入れ替えが試験的に実施されるなど、積極的に幼稚園、保育園及び小中学校の園庭、校庭の汚染除去を実施する動きが出ている。

しかし、他方で、福島県内の小中学校の中には、本通知以後、土壌の除去、除染、客土等の対応の検討を全く行わないままに、本通知の20mSv/年という基準を下回っていることをもって全面的に屋外活動を実施しようとしているものがある。例えば、西郷村内の小学校は、例年5月に開催している運動会の日程を変更しないことを校長会にて決定したし、また、いわき市中心部の学校では、何らの制限なく従前通りの学校活動を行うとの方針が示されている。さらに、福島市教育委員会も、屋外活動が制限されていた全ての小中学校の制限が解除されたことを受けて、「徐々に(屋外での)活動範囲を広げていきたい。」との考えを示すに至っている。

このような、20mSv/年という基準を下回りさえすれば、あたかも全面的に屋外活動を実施することができるかの如き動きは、極めて問題が大きい。

3. そもそも、本通知において公衆の被ばく限度基準値の安易な緩和がなされている点は、当会として直ちにこれを是認しうるものではないが、本通知も、20mSv/年までは児童生徒等が被ばくすることを容認するというものではなく、暫定的な目安を定めつつも、「今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切」とし、学校等において極力児童等の被ばくを回避・抑制する措置を取ることを求めているものである。

この点については、4月29日、放射線安全学を専門とする小佐古敏荘内閣官房参与が20mSv/年という基準に抗議して辞任したうえ、「年間20ミリシーベルト近い被ばくをする人は原子力発電所の放射線業務従事者でも極めて少ない。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたい」と主張しているところであるし、班目春樹原子力安全委員会委員長が、基準を下回りさえすれば校庭を使わせるというのは非常に安易であるとして批判したとの報道もなされている。

しかも、上記1~20mSv/年という数値は、夏季休業終了(おおむね8月下旬)までの期間を対象とした暫定的なものであるとされている。

夏季休業終了後については、非常事態が終息した後の長期的な放射線防護の観点から、上記よりも大幅に厳しい基準が適用されるべきであるし、現に、政府が本年8月に上記1~20mSv/年という基準の厳格化を目指すとの報道もなされている。

国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication111(原子力事故又は放射線緊急事態後における長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用)によっても、非常事態が終息した後の放射線防護の基準について、「Publication103で勧告された1~20mSvの範囲の下方部分から選定すべきであることを勧告する。」「過去の経験により、長期の事故後状況における最適化プロセスを制約するために用いられる代表的な値は1mSv/年であることが示されている。」とされている(ICRP Publ. 111 日本語版・JRIA暫定翻訳版による)。

4. 放射線の被ばくによる健康被害については、どのような低線量の被ばくであっても確率的には健康被害につながることが否定できない。

福島県内の児童生徒等は、福島第1原子力発電所事故により、福島県内の広範囲に大量の放射性物質が拡散したことから、事故前と比較して大量の放射線に被ばくしており、その被ばく量は日々蓄積している。

また、同じ園庭や校庭内であっても、雨樋の排出口や排水溝など、放射性物質が集積して流入しているような場所は、他の場所よりも格段に放射線量が高いことがあり、児童生徒等が過大に被ばくするおそれがある。

そのような状況において、20mSv/年という基準を下回ったというだけで漫然と屋外活動を行うことは、児童生徒等の健康被害のリスクを更に増加させるものであり、許されるものではない。

福島県教育委員会及び県内の学校等の管理者は、当該学校等の放射線量が20mSv/年という基準を下回ったとしても、少なくとも1~20mSv/年の範囲の下方部分に該当するといえない限り屋外活動を禁止し、引き続き空間線量率や、大気中の放射性物質濃度、土壌の放射性物質に関し、複数の専門機関による詳細なモニタリングを行いながら放射線量を注視すべきであり、必要な屋外活動については代替施設による実施等を検討すべきである。

もし仮に、20mSv/年という基準を下回ったというだけで漫然と屋外活動を実施し、児童生徒等が過大に被ばくした結果、晩発性の健康被害が生じた場合には、児童生徒等に対する安全配慮義務を怠ったものと評価されかねないことにも十分留意すべきである。

また、仮に屋外活動を実施する場合には、事前に活動場所にかかる空間、土壌等における放射性物質濃度をきめ細かく測定し、特に、放射性物質が集積して流入している等により格段に放射線量が高い場所がないかを十分に調査し、必要に応じて除染を行うなど適切な措置を講じるべきである。 

更に、運動会のように長時間屋外にて活動する場合、外部被ばく量が大きくなるものであり、また、同様に砂ぼこりの吸入や転倒による負傷、屋外での飲食などにより校庭の表面に蓄積したり浮遊したりしている放射性物質を体内に取り込むことによる内部被ばくの危険も増大することに留意し、その判断をより慎重に行うべきである。

5. 以上の理由により、当会は、今後児童生徒等の被ばくを極力回避・抑制すべく、国、福島県、福島県教育委員会及び福島県内の小中学校の各学校長に対し、速やかに以下の措置を取るよう要望するものである。

(1)幼稚園、保育園及び小中学校の放射線量が20mSv/年という基準を下回ったとしても、少なくとも1~20mSv/年の範囲の下方部分に該当するといえない限り屋外活動を禁止し、引き続き空間線量率や、大気中の放射性物質濃度、土壌の放射性物質に関し、複数の専門機関による詳細なモニタリングを行いながら放射線量を注視すること。必要な屋外活動については代替施設による実施等を検討すること。

(2)仮に屋外活動を実施する場合、事前に活動場所にかかる空間、土壌等における放射性物質濃度をきめ細かく測定し、特に放射性物質が集積して流入している等により格段に放射線量が高い場所がないかを十分に調査し、必要に応じて除染を行うなど適切な措置を講じること。

(3)特に、運動会など児童生徒等が屋外において長時間活動することを前提とする学校活動等の実施については、その判断をより慎重に行うこと。

2011年(平成23年)05月11日
福島県弁護士会
会長 菅野 昭弘

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