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貧困の連鎖を断ち切り,すべての子どもに人間らしい生活と発達を保障するための施策を求める決議

現在,わが国では,貧困の拡大により,生活と発達の危機にさらされている子どもが増加している。

厚生労働省は,2009年(平成21年)10月,初めて子どもの貧困率調査を行い,同年11月,その調査結果を公表した。調査結果によれば,わが国の子どもの貧困率は13.4%であり,7人に1人の子どもが貧困状態にあること,また,ひとり親世帯の子どもの半数以上が貧困状態にあることが明らかになった。

子どもの貧困問題は,本県においても決して例外ではない。昨年6月に行った「子どもの貧困 生活費・教育費ホットライン」において,子どもの学費や生活費をめぐる多様な相談が寄せられたことにも示されるように,本県内でも,子どもの貧困は深刻であり,放置できない問題として,現に目の前に存在している。

1989年(平成元年)に国連で採択され,1994年(平成6年)に日本政府も批准している「子どもの権利条約」(国の和訳名称「児童の権利に関する条約」)では,「児童の最善の利益を主として考慮すること」(第3条)を基本とし,子どもの生存権・発達の権利を保障した上で(第6条),子どもの身体的・精神的・道徳的・社会的な発達のために相当な生活水準についての権利(第27条)が規定されている。日本国憲法においても,子どもは当然ながら人権の享有主体であり,幸福追求権(第13条),生存権(第25条),教育を受ける権利(第26条)等の様々な権利を保障されている。

しかし,上記のような子どもの貧困の現状は,子どもの権利条約や日本国憲法に定められた子どもの生存権や発達権等の人権を脅かしているものと言わざるを得ない。また,子ども時代の貧困は,十分な教育を受けられなかったために,非正規雇用の職にしか就けず,低賃金で生活せざるを得ないなどという形で連鎖して生涯全体に影響し,次世代まで続く貧困の連鎖と拡大再生産を招くことになる。このような状態が長期間にわたり継続し拡大していけば,日本社会全体の崩壊につながりかねない。

日本弁護士連合会(日弁連)は,昨年10月に岩手県盛岡市で開催した人権擁護大会において,「貧困の連鎖を断ち切り,すべての子どもの生きる権利,成長し発達する権利の実現を求める決議」を採択した。

当会では,昨年4月,貧困と人権に関する委員会を設置して以降,同委員会において,貧困問題に関する様々な取り組みを行ってきた。子どもの貧困問題についても,昨年6月,日弁連の呼びかけによる全国一斉「子どもの貧困 生活費・教育費ホットライン」を実施し,子どもを養育している家庭での生活苦や,進学費用に関する深刻な悩みが寄せられた。

当会は,上記日弁連人権擁護大会決議において求めた施策の実行を国及び地方自治体に求めるとともに,上に述べたような子どもの貧困の実態を踏まえ,福島県及び県内の市町村に対して,緊急に,下記の施策をとることを求める。

1. 医療制度の充実

・子どもの医療費無料制度を高校卒業程度まで延長すること。

・子どもが疾病等により保育所等での保育を受けられない場合の病児保育施設を設置すること。

2. 保育所の充実

・潜在的待機児童数(認可保育所への入所申込をし,入所要件に該当するが,他の機関等で保育を受けているために認可保育所に入所していない児童数及び認可保育所への入所を希望しているが入所申込をしていない児童数)についての全県調査を行うこと。

・潜在的待機児童を含めたすべての待機児童の解消のため,公立保育所の増設・充実を図ること。

3. 就学援助制度の充実

・準要保護児童(世帯)に対する受給要件や受給額についての自治体間格差を是正し,援助を必要とするすべての児童に対して公平に援助がなされるように配慮すること。そのためにも,就学援助制度にかかる国庫負担の増額を国に求めること。

・すべての小中学校で就学援助についてのパンフレットを全保護者に配布し説明会を行うなど,就学援助制度についての広報を充実させること。

4. 学童保育の充実

・民設の学童保育設置について援助を行うことも含め,自治体内のすべての小学区に学童保育所を設置すること。

・民設ないし民営の学童保育に対し,施設維持費や運営費等の補助を行い,公設(公営)学童保育との利用料の格差解消に努めること。

5. 高校生に対する奨学金制度等の充実

・高校生に対する奨学金制度を創設すること。すでに奨学金制度が存在する自治体では,給与制への変更や奨学金額の増額などを実施すること。

・生徒や保護者から一律に徴収する高校諸納金(諸会費等)は必要最小限のものにとどめるとともに,低所得世帯についての諸納金減免制度をすべての高校で実施するよう指導すること。そのために,公私立を問わず,高校やPTAに対する公費補助を充実させること。

当会及び当会所属弁護士は,今後も,子どもの貧困について,調査・研究を行い,すべての子どもに対して,等しく,人間らしい生活と発達が保障されるための施策を求めるとともに,子どもが,その発達段階に応じて適切な支援を受けられるようにするため,関係諸機関等との連携を図るなど,相談体制の確立・強化に努める決意である。

以上,決議する。

2011年(平成23年)02月26日
福島県弁護士会

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