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少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明

少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明

1.政府与党は,選挙権年齢を18歳以上に引き下げる内容での公職選挙法改正案を受け,特命委員会を設置し,少年法の適用年齢を現在の20歳から18歳に引き下げる議論を進め,今国会会期中に方向性をまとめるとの考えを示したと報じられている。

2.しかし,法律の適用年齢は,それぞれの法律の立法趣旨や目的ごとに,子ども・若者の利益と犯罪予防など社会全体の利益を実現する観点から個別具体的に検討すべき事項である。
選挙権年齢の引下げについては,いわば選挙権という権利行使に関する引下げであり,将来を担う若者の政治参加を促進し,国政への関心を高め,かつ,国政に広く多様な民意を反映させることを目的とするものである。
他方で,少年法の適用年齢の引下げは,刑事手続の刑事罰といういわば義務に関する引下げである。可塑性が期待される少年に対して成人の刑事手続とは異なる処分を行ない,もって少年の健全な育成を期するところに少年法の目的がある以上,少年法の適用年齢を選挙権年齢の引下げと同様に論じることができるものではないし,そもそも,法律の適用年齢を全ての法律で共通させなければならない必然性もない。

3.少年法の適用年齢引下げの論拠として挙げられるのが,少年による凶悪な犯罪行為に対して,現行の少年法が抑止効果を持たず,そのことが少年犯罪を助長しているという指摘である。
しかしながら,現行少年法は十分に機能しており,この指摘は全く当てはまらない。
まず,統計上,少年犯罪の件数は,殺人や放火等の凶悪犯も含めて,人口比においては減少を続けている。また,非行の手口が残虐になっているという指摘も,マスメディアが,不幸にも発生した一部の事件を過大に報道した結果,その残虐性が一人歩きしているにすぎず,必ずしも的を射ていない。
また,現行少年法においても,悪質な行為は,成年と同様に裁判員裁判を含む手続がとられ,場合によっては少年でも死刑判決という厳しい刑罰が選択される可能性がある。
さらに,2014年には,少年に対する刑罰の上限引上げがなされたばかりで,この効果の検証もなされないままに少年法の適用年齢を引き下げることの合理性は存在しない。

4.次に,仮に少年法の適用年齢を引き下げることとなれば,現在の制度下で保護されている大多数の少年に深刻な影響を与え,結果的に社会全体にも大きな不利益を生じかねない。
現行少年法は,全件送致主義をとっており,検察庁が受理した少年事件は嫌疑不十分又は嫌疑なしの場合を除いて,全件家庭裁判所に送致されている。家庭裁判所の手続では,事件の背景や少年の育ってきた環境等について,家庭裁判所調査官及び少年鑑別所による科学的専門的調査が行われ(科学主義),各々の少年の個別性や具体的事情に着目し,少年自身の責任とすることのできない問題等を抱えている少年に対して,きめ細やかな個別処遇が行なわれることになる。それは,犯罪行為に対して責任非難としての刑罰を科すことにより国家の刑罰権を実現する刑事手続とは本質的に異なるものである。
そして,現在の少年司法の統計によれば,全少年被疑者中,年長少年とされる18歳,19歳の少年が占める割合は全体の43.5%であり,少年事件の4割以上が年長少年である。仮に少年法の適用年齢引下げが行なわれた場合,現在,家庭裁判所が取り扱っていた少年の4割以上が少年法の適用から外れ,家庭裁判所が関与せず,刑事手続で処分されることとなる。
また,現在の検察の起訴猶予率はおよそ7割程度であるから,年長少年の半分以上は起訴猶予となり,略式命令でも罰金を支払えば終了し,公判請求されても初犯であれば執行猶予となる確率は極めて高い。そして,刑事手続で処分された年長少年は,犯罪の背景・要因となった少年の資質や環境上の問題に直面せず,立ち直りの機会も与えられないまま手続が終了することとなる。
事実,州ごとに法律が異なるアメリカ合衆国の保護処分と刑罰の効果を比較した研究結果によれば,刑事裁判所により刑罰を科された少年の方が,より高い再犯リスクを有することが報告されている。このように,全体的に見れば,刑事手続で処分されることが少年,ひいては社会全体にとって不利益が大きいのである。

5.そして,少年法の適用年齢が引き下げられ,年長少年が刑事手続の適用を受けることとなれば,成人と同様に実名報道がなされることにより,さらに少年の立ち直りの機会を奪うこととなる。
少年が刑事手続によって裁かれることにより,若くして犯罪者としての烙印やレッテルを貼られ,また,インターネットを中心とするメディアで氏名,住所,家族構成,在学中の学校等の個人情報が瞬く間に広がり,いわゆる「私刑」によって,事実上の制裁を受け,少年がやり直しの機会すら与えられないまま,社会から抹殺されてしまうのである。このことは,次世代を担うべき若者が社会から隔離されるという意味で社会的に見ても大きな損失であり,見過ごすことはできないはずである。

6.なお,政府与党内では,少年法の適用年齢引下げにつき,18,19歳の少年は条件を満たせば,特例扱いにして従来の少年と同様に保護するという案が出されたとの報道がなされている。事実,ドイツでは「倫理的・精神的成長に照らして少年と同等」という条件を満たした場合,少年法の適用を認めるという特例があることから,かかる制度に倣って例外の余地を残すというものである。
しかしながら,このような特例に関しては,条件の明確性や判断権者の問題が生じることは明らかであるし,保護されるべき少年が保護されないまま放置されるというリスクが多分に残り,十分に機能するとは言い難い。

7.少年法の適用年齢は,資質上・生育環境上の問題を抱え,対人関係形成能力や社会適用能力が十分に身についていないことから,非行を行ってしまった少年に対してどのような処遇を行うことがその少年及び社会にとって有用かという観点から判断されるべき事柄である。
また,現行の少年法はかかる観点から十分機能している一方,適用年齢引下げによる弊害は極めて大きいと言わざるを得ないことから,少年法の適用年齢引下げには強く反対する。

2015(平成27)年7月28日
福島県弁護士会
会長  大 峰  仁

少年法の適用上限年齢の引下げについて(改訂版・確定)

 

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