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憲法96条1項の憲法改正発議要件の「改正」に反対する決議

憲法96条1項は,憲法改正について,各議院の総議員の3分の2以上の賛成による国会の発議と国民の承認という厳格な要件を設けている。この規定に関し,2013年(平成25年)7月に行われた第23回参議院議員通常選挙において,複数の政党が国会の発議要件の緩和を公約に掲げるなど,近時,国会の憲法改正発議要件を緩和しようとする動きが,多く見られる。

しかし,国会の憲法改正発議要件を緩和することは,以下のように重大な問題を孕んでいる。

憲法改正に厳格な要件が設けられているのは,国民主権,基本的人権の尊重,平和主義という憲法の三大原理の変質を防止し,永続的に確保しようとしているからであって,憲法の最高法規性の宣言(憲法98条),憲法尊重擁護義務(憲法99条),三権分立制(憲法41条・65条・76条),法令審査権(憲法81条)とともに,憲法保障の一環である。憲法改正発議要件を緩和することは,憲法保障を弱体化させることに他ならず,憲法の三大原理をないがしろにすることに繋がりかねない。また,憲法は,公権力を行使する者を憲法で拘束して国民の権利と自由を確保する立憲主義的意義を有するところ,発議要件を緩和すると,国会への拘束を緩和することになり,立憲主義的意義を後退させることにもなる。

現に,憲法改正発議要件の緩和を主張する政党は,「国防軍」の創設等を内容とする日本国憲法改正草案を発表し,三大原理に関わる規定の「改正」を目指している。その「改正」内容が,三大原理そのものをも改変させるものであるのか否かは,その拠って立つ政治的信条により見解が異なり得るものの,安易な「改正」が許されないことは当然であり,発議要件の緩和を先行させて三大原理に関わる規定の「改正」を推し進めようとすることは,戒められなければならない。

よって,当会は,立憲主義の後退と,憲法の三大原理の変質を招く,憲法改正発議要件の緩和に反対するものである。

以上のとおり決議する。

以上

2014年(平成26年)2月22日
福島県弁護士会
会長 小池 達哉

提案理由

第1 憲法改正発議要件の緩和を推進する政治勢力の台頭

2012(平成24年)年4月27日,自由民主党は,日本国憲法改正草案(以下「草案」と言う。)を発表した。その内容は,前文から各条項に至る迄広範に「改正」するものであり,憲法改正に関して,「この憲法の改正は,衆議院又は参議院の議員の発議により,両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し,国民に提案してその承認を得なければならない」(草案100条1項)とし,「この憲法の改正は,各議院の総議員の三分の二以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない。」とする憲法96条1項よりも,憲法改正発議要件を緩和している。

2012年(平成24年)12月に行われた衆議院議員総選挙の結果,自由民主党の議員が過半数を占め,安倍晋三衆議院議員を内閣総理大臣とする新内閣が発足した。安倍晋三内閣総理大臣は,2013年(平成25年)1月30日の衆議院本会議における答弁で,「党派ごとに異なる意見があるため,まずは多くの党派が主張している憲法第96条の改正に取り組」むことを表明した。2013年(平成25年)7月に行われた参議院議員通常選挙では,複数の政党が憲法改正発議要件の緩和を公約に掲げ,その一つである自由民主党の議員が,非改選議席と合わせて過半数を占め,同じく憲法改正発議要件の緩和を公約に掲げた日本維新の会の議員も大幅に増加した。

このようにして,現在,衆議院においても参議院においても,憲法改正発議要件の緩和を推進する政治勢力が議席の過半数を大きく上回り台頭している。

第2 厳格な発議要件の趣旨とその緩和の意味するところ

言うまでもなく,憲法は,国民主権,基本的人権の尊重,平和主義を三大原理としている。かかる三大原理は是非とも堅持されなければならないのであって,これを変質させることは許されない。憲法96条1項が,「この憲法の改正は,各議院の総議員の三分の二以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には,特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において,その過半数の賛成を必要とする。」と定め,憲法改正に際し,改正権者である国民の承認に先立ち,過半数でなく,各議院の総議員の3分の2以上の賛成による国会の発議を要件としているのは,国会による恣意的な憲法「改正」発議を防止し,三大原理を堅持しようとしているからであって,最高法規性の宣言(98条),公務員の憲法尊重擁護義務(99条),三権分立制(41条・65条・76条),最高裁判所の法令審査権(81条)などと共に,憲法保障の一環である。憲法制定権が国民に存する以上,国民が憲法を改正することは可能でなければならないが,三大原理を変質させることは憲法改正権の限界を超えるものであって,憲法改正権と三大原理の堅持は両立されなければならない。その両立の要請に応えるべく,憲法制定権者たる国民による承認に先立ち,各議院の総議員の3分の2以上の賛成を国会の憲法改正発議要件とすることで,国会による恣意的な憲法「改正」を防止しようとしているのであって,発議要件を緩和すべき合理的必要性は見出し難い。

また,憲法は,公権力を行使する者による権力濫用を防止して国民の権利と自由を確保する立憲主義的意義を有するのであり,憲法改正発議要件が厳格なのは,立憲主義の徴表でもある。憲法改正発議要件の緩和は,国会に対する束縛を緩和することに他ならず,立憲主義的意義を後退させ,恣意的な憲法「改正」を許し,三大原理の破壊されるおそれがないとはいえない。

第3 これまでの弁護士会の取り組み

日本弁護士連合会は,2013年(平成25年)3月14日,「発議要件を3分の2以上から過半数に改正すると,憲法改正発議はきわめて容易となる。議会の過半数を握った政権与党は,立憲主義の観点からは縛りをかけられている立場にあるにもかかわらず,その縛りを解くために簡単に憲法改正案を発議することができる。これでは,立憲主義が大きく後退してしまうこととなる。」旨を述べた「憲法第96条の発議要件緩和に反対する意見書」を作成し,同年10月4日の第56回人権擁護大会において,「憲法改正発議要件の緩和は,国民の代表である国会での熟議による合意形成の機会を奪い,時々の国家権力による恣意的な憲法改正に道を開き,立憲主義の土台を揺るがすおそれがある。しかも,この度の改正提案は,まず改正要件を緩和して憲法改正のハードルを下げ,その後に憲法第9条をはじめ,国民主権,基本的人権の尊重,恒久平和主義という基本原理の改正をも予定しているものであって,このような基本原理の改正につながる発議要件の緩和は到底容認しえないものである。」として,「立憲主義の見地から憲法改正発議要件の緩和に反対する決議」をし,憲法改正発議要件の緩和に反対する姿勢を鮮明にしている。近時,いわゆるブロック弁連の多くや単位会の多くにおいても,同趣旨の総会決議をしたり,会長声明を発したりしており,当会においても,2013(平成25年)年6月17日,「憲法第96条の発議要件緩和に反対する会長声明」を発し,「発議要件を3分の2から過半数に改正してしまうと,衆参両院で過半数を有する多数党であれば容易に憲法改正を発議できることになり,国の基本法が安易に変更され,基本的人権の保障が形骸化されてしまう危険性が生じ,国家権力を縛るという憲法の目的が損なわれることになりかねない」ことなどを理由に,憲法改正発議要件の緩和に反対している。

第4 決議案の意義

憲法改正問題は,優れて政治的な問題であり,各人の拠って立つ政治的信条毎にその捉え方は大きく異なるが,国民主権,基本的人権の尊重,平和主義の三大原理を堅持すべきであることは,今日,普遍的な考え方であり,権力者を憲法で縛り,国民の権利と自由を確保する立憲主義も,今日,普遍的な理念である。基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする弁護士及び弁護士法人を会員とする当会が,三大原理の変質や立憲主義の破壊をもたらしかねない動きに反対することは,当然である。憲法改正発議要件の緩和は,三大原理の変質や立憲主義の破壊をもたらしかねない動きそのものであり,これに反対することは,当会の使命ですらあるといえる。当会においては,上記,「憲法第96条の発議要件緩和に反対する会長声明」を既に発しているが,今ここに,あらためて総会決議をすることによって,三大原理を変質させたり,立憲主義を破壊させたりしかねない憲法改正発議要件の緩和に反対する姿勢をより鮮明にすることは,発議要件の緩和を目指す勢力が国会で多数を占める今日の政治情勢や先の特定秘密保護法案における審理経過に鑑み,極めて重要である。

第5 結論

よって,憲法の三大原理と立憲主義の理念を堅持させる見地から, 憲法改正発議要件を緩和する憲法96条1項の「改正」に反対する決議案を提案するものである。

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