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「自然エネルギー100%」による持続可能なエネルギー社会実現に向けた施策を求める決議提案理由

提案理由

1 原子力利用の問題点
 2011年(平成23年)3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故は,周知のとおり,広い地域に,避難,被ばく,財産や営業,雇用等様々な面における甚大な人権侵害を発生させた。
しかも,被害は,現在も進行中であり,ことに警戒区域等から避難を余儀なくされた住民の被害は甚大である。政府は,平成24年4月以降,従来の警戒区域と計画的避難区域について,順次,帰還困難区域,居住制限区域,避難指示解除準備区域に再編したが,帰還困難区域,居住制限区域において具体的に帰還できる見通しはたっていない。避難指示解除準備区域についても,田村市(2014年(平成26年)4月1日),川内村(2014年(平成26年)10月1日)において解除がなされたものの,住民の帰還は必ずしも進んでおらず,地域コミュニティーが事故前と同様に回復したというものではない。
放射性物質による土壌の汚染については,住宅地,校庭,公園等を中心として,主に表土の剥ぎ取りによる除染が行われているが,面積が広大な農地や森林については表土の剥ぎ取りによる対応では限界があるし,湖沼,海洋等に至っては未だに適切な除染方法すら見つかっていない状態である。
表土の剥ぎ取りによる除染は,放射性物質を含む汚染土等の放射性廃棄物を発生させるところ,環境省は,このような放射性廃棄物を集中的に管理する中間貯蔵施設を建設し,2015年(平成27年)1月を目途として施設の供用を開始するとしていたが(環境省平成23年10月29日「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質による環境汚染の対処において必要な中間貯蔵施設等の基本的考え方について」),現実には,現時点でも中間貯蔵施設の工事は進んでおらず,中間貯蔵施設が本格的に稼働する見通しは現時点でも立っていない。また,中間貯蔵施設の完成までの保管場所となる「仮置き場」についても,多くの市町村においては十分に確保できておらず,除染を実施した各住宅の敷地内にて保管している例もある。
また,原子力の利用により高レベル放射性廃棄物の発生が不可避であるところ,その最終処分の場所,方法等は未だ決定されておらず,決定される具体的な見込みもない状況である。仮に,最終処分の場所及び方法等が決定された場合であっても,実際に最終処分がなされた後も,1,000年以上の極めて長期に亘り管理を継続していかなければならないものである。
以上のとおり,原子力の利用は,一旦重大な事故が発生すれば,広い地域に,避難,被ばく,財産や営業,雇用等様々な面における甚大な人権侵害を発生させ,かつ,その人権侵害は極めて長期的に継続するものであるし,高レベル放射性廃棄物の処理の点でも将来の世代に対して極めて重い負担とリスクを背負わせるものである。
2 化石燃料利用の問題点
 化石燃料の利用については,かねてより,CO2排出に伴う地球温暖化の問題が指摘されてきたところである。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年9月から2014年11月にかけて発表した第5次評価報告書は,温室効果ガスの継続的な排出は,更なる温暖化と気候システムの全ての要素に長期にわたる変化をもたらし,それにより,人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる不可逆的な影響を生じる可能性が高まること,気候変動を抑制する場合には,温室効果ガスの排出を大幅かつ持続的に削減する必要があることを指摘している。
同報告書は,温暖化を緩和する方法として,CO2及びその他の長寿命温室効果ガスについて,今後数十年間にわたり大幅に排出を削減し,21世紀末までに排出をほぼゼロにすることを要すると指摘している。また,現行を上回る追加的な緩和努力がないと,21世紀末までの温暖化は,深刻で広範にわたる不可逆的な世界規模の影響に至るリスクが,高いレベルから非常に高いレベルに達するであろうことを指摘している(以上,IPCC第5次評価報告書統合報告書政策決定者向け要約の概要(速報版)による)。
また,わが国の環境省予算による研究「温暖化影響総合予測プロジェクト」が平成20年5月に研究成果を公表したところによれば,わが国では地球温暖化により以下のような深刻な影響が生じることが予測されているところである。
まず,水資源への影響として,豪雨の頻度と強度が増加して,洪水の被害が拡大し,土砂災害,ダム堆砂が深刻化すること,濁質流出量増加によって水道の浄水費用が増加すること,一方,積雪水資源の減少は,東北の太平洋側で代掻き期の農業用水の不足を招き,降水量の変化によって九州南部と沖縄などで渇水のリスクが高まることが予測されている。
また,森林への影響として,温暖化に伴う気温上昇・降雨量変化によってわが国の森林は大きな打撃を受けること,ブナ林・チシマザサ・ハイマツ・シラベ(シラビソ)などの分布適域は激減し,今世紀の中頃以降,白神山地もブナの適地ではなくなること,また,マツ枯れの被害リスクが拡大し,1~2℃の気温上昇により,現在はまだ被害が及んでいない本州北端まで危険域が拡大することが予測されている。
その他,健康への影響として,温暖化によって健康への脅威が増すこと,気温とくに日最高気温の上昇に伴い,熱ストレスによる死亡リスクや,熱中症患者発生数が急激に増加し,とりわけ高齢者へのリスクが大きくなること,気象変化による大気汚染(光化学オキシダント)の発生が増加すること,感染症(デング熱,マラリア,日本脳炎)の媒介蚊の分布可能域も拡大することが予測されている。
化石燃料の利用は,人為起源の温室効果ガス排出のうち最も大きな原因とされており(気象庁はIPCC第5次評価報告書に基づき,人為起源の温室効果ガスの総排出量に占める化石燃料由来のCO2の割合は65.2%であるとしている),上記のような将来の世代への重大な悪影響の原因となることに照らして,今後の社会に必要なエネルギーの中心ではあり得ない。
3 自然エネルギーを代替エネルギーとすべきこと
 以下に述べるように,今後社会に必要なエネルギーは,原子力でも化石燃料でもなく,自然エネルギー(太陽光,風力,中小水力,地熱等。「再生可能エネルギー」ともいう)を中核として賄っていくことが十分に可能である。
環境省は,今後の再生可能エネルギーの導入普及施策の検討のための基礎資料とするため,委託事業として,平成21年度及び平成22年度に「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」,平成23年度及び平成24年度に「再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報整備」を実施し,わが国における再生可能エネルギーの導入ポテンシャル(=エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因による設置の可否を考慮したエネルギー資源量),導入可能量(事業収支に関する特定のシナリオ(仮定条件)を設定した場合に具現化が期待されるエネルギー資源量であり,導入ポテンシャルの内数)等の推計を行っている。
これらの委託事業にかかる報告書に基づいて試算すれば,わが国の自然エネルギー利用の導入ポテンシャル及び導入可能量は別表「わが国の自然エネルギーの導入ポテンシャル」「わが国の自然エネルギーの導入可能量」(以下あわせて「別表」という。)のとおりであり,極めて高いものである。
① 発電設備容量(発電設備における単位時間当たりの最大仕事量)について
別表のとおり,わが国の自然エネルギー利用の導入ポテンシャル,導入可能量について,発電設備容量でみると,導入ポテンシャルは20.1億kW,導入可能量は11.5億kWと推計することができる。
平成25年度エネルギー白書によれば,2012年度末の発電設備容量(10電力計(受電を含む))の合計は2.4億kWであるが,わが国の自然エネルギー利用の導入ポテンシャル(20.1億kW),導入可能量(11.5kW)は,これを大きく上回るものである。
② 年間発電電力量(発電設備が1年間に供給する電力の総量)について
別表のとおり,わが国の自然エネルギー利用の導入ポテンシャル,導入可能量について,年間発電電力量でみると,導入ポテンシャルは39,566億kWh,導入可能量は23,191億kWhと推計することができる。
平成25年度エネルギー白書によれば,2012年度のわが国の電力消費量は9160億kWhであるが,わが国の自然エネルギー利用の導入ポテンシャル(39,566億kWh),導入可能量(23,191億kWh)は,これを大きく上回るものである。

 【①    発電設備容量の比較】          【② 年間発電電力量の比較】
   グラフ1           グラフ2

わが国の2012年度の発電設備容量,年間発電電力量と導入ポテンシャル,導入可能量の比較
(上記引用した資料等をもとに当会自然エネルギー推進検討PTが作成)

  しかも,以上の推計において基礎とした前記報告書における数値はあくまでも現時点におけるものであり,今後,導入ポテンシャルを算出する過程における種々の制約要因の解消(法規制の変更等)や,技術革新による設備利用率の上昇等により,導入ポテンシャル,導入可能量は更に増大することも十分に想定される。
更に,発電のほか,自然エネルギーの熱利用(太陽熱,地中熱,バイオマス熱等)を進めることも可能であること,既に開発されている省エネルギー技術が広く普及し,新たな省エネルギー技術も開発されるであろうこと,輸送燃料に関しては自然エネルギーを利用した発電による水素の製造,利用等の技術革新が進むと考えられること等を総合すれば,今後社会に必要なエネルギーを,原子力にも化石燃料にも依存することなく,自然エネルギーを中核として賄っていくことは十分に可能である。
千葉大学倉阪研究室及びNPO法人環境エネルギー試作研究所が行っている,国内の市区町村ごとに再生可能エネルギーの供給量を推計する「エネルギー永続地帯」研究の最新結果(2014年3月現在)によれば,既に57市町村が,域内の民生・農水用エネルギー需要を上回る量の再生可能エネルギーを生み出しているとされている(福島県内では柳津町,下郷町)。また,電力に限ってみれば,既に89市町村が,域内の民生・農水用電力需要を上回る量の再生可能エネルギー電力を生み出しているとされている(福島県内では柳津町,下郷町に加え,田村市)。
また,デンマークでは,1985年に議会が原子力発電の導入計画を中止すべきと決議した後,政府が2050年までに化石燃料からの脱却を目指す長期的なエネルギー戦略を打ち出しており,最新の計画では「2020年に最終エネルギー消費量の35%をまかない,2050年に100%を目指す」としている。
以上のとおり,近い将来においても社会に必要なエネルギーは,自然エネルギーを中核としていくことが十分に可能なのであるから,最終的には社会に必要なエネルギーは全て自然エネルギーから生み出すこと(即ち「自然エネルギー100%」)を目指さなければならない。
4 持続可能なエネルギー社会を構築することが,人権に関わる問題であること
東京電力福島第一原子力発電所事故後,自然エネルギーを利用する気運が高まり,固定価格買取制度が施行され,自然エネルギー利用に関する各種の規制緩和が進められている。
しかし,電気事業連合会が2014年(平成26年)5月23日に発表したところによれば,2013年度の発電電力量のうち,水力を除く自然エネルギーによる発電電力量の占める割合はわずか2.2%程度にとどまっており,ダムなどの大規模なものを中心とした水力をこれに加えても10.7%程度である。その他の大部分の発電は化石燃料(天然ガス43.2%,石炭30.3%,石油14.9%)を利用するものであるうえ,一旦は全て停止した原子力発電所について再稼働に向けた動きさえも進んでいる。

円グラフ

                2013年度電源別発電電力量構成比
       (電気事業連合会が発表した資料等をもとに当会自然エネルギー推進検討PTが作成)

  甚大かつ長期的に継続する人権侵害を招きかねない原子力や,将来の世代に重大な悪影響を与える化石燃料の利用を継続していくことは,我々の世代が将来の世代に負担を課するものであり,ひいては将来の世代における人権の社会的基盤を失わせるものである。
我々は,自然エネルギー利用を飛躍的に拡大させて早期に持続可能なエネルギー社会を構築することが,人権に関わる問題であり,将来の世代に向けた我々の世代のなすべき責任であることを自覚して,あらためて積極的に取り組んでいく必要がある。
5 福島県及び県内各市町村において行うべき施策
原発事故の被害を最も大きく受けた福島県は,自然エネルギー利用の取り組みによる復興を目指しているところであり,福島県及び県内各市町村は,持続可能なエネルギー社会の実現に向けて,率先して以下の施策を進めていくべきである。
⑴ より具体的な導入計画の策定
福島県が2012年(平成24年)3月に策定した「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」(改訂版)では,県内について2030年度に一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を63.7%とし,更に「2040 年頃を目途に,県内のエネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再生可能エネルギーで生み出す県を目指す」としている。
この目標は,具体的な数値目標がある程度示されたものとはいえるが,実際にこの目標を実現するためには,福島県は更に県内市町村と協議して,県内の自然エネルギーの市町村別・種類別のより具体的な導入計画を策定し,その導入計画を実現するための必要十分な国及び自治体が行うべき施策並びに予算の検討を率先して進めるべきである。
そのうえで,自然エネルギーに関する施策は,固定価格買取制度,電力系統の広域化及び中立化,自然エネルギー利用施設設置にかかる規制緩和など,国において行うべきものが多いことから,福島県は導入計画を実現するために必要な国の施策について,国に対して積極的に実施を求めていくべきである。
国は,2014年(平成26年)4月11日に閣議決定した「エネルギー基本計画」(第4次計画)において,これまでのエネルギー基本計画を踏まえて示した水準(2030年において約2割)を上回る水準の導入を目指すとしているが,具体的な数値目標も,地域別・種類別の導入計画も示されておらず,必要十分な施策及び予算の検討をすることもできないものであって,抽象的な目標以上の意味を有しない。
他方で,民間ではWWFジャパン(公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン)が2011年7月から2013年9月にかけて「脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ」を発表し,2050年までに,既存の省エネルギー技術の急速な普及でエネルギー消費量を1990年比の約50%に減少させ,自然エネルギー100%の社会を実現させるものとして,そのために必要な施策及び予算を具体的に示したなどの例もある。
福島県は,国に先駆けてより具体的な導入計画を策定し,その導入計画を実現するための必要十分な国及び福島県が行うべき施策並びに予算を示すことで,持続可能なエネルギー社会の実現に向けた道筋を示すべきである。
 ⑵ 地域主体の取組に対する助成及び支援の施策,自治体自身の事業への取り組み
自然エネルギーは自然界に広く薄く分布しており,輸送や貯蔵に適さないこと等から,その地域において,分布状況に即して利用していく必要がある。
そのためには,地域の状況を十分に理解している地元住民,地元企業,自治体等が主体となって自然エネルギーの利用に取り組んでいくこと(具体的には,地域の資金及び地域の意思決定に基づき,地域の自然エネルギー事業が計画,実践され,自然エネルギー事業の恩恵が地域にもたらされること)が有効である。
太陽光,風力,小水力等のいわゆる発電適地において,地域外の大規模事業者が地域の産業や生活と関わりを持たずに発電事業のみを行うようなケースは,必ずしも,その地域に存在する様々な自然エネルギーを無駄なく利用することにはつながらないと考えられる。
また,自然エネルギーは,もともとその地域に存在するものであり,これを利用することは地域の資源を活かすことである。地域において自然エネルギーを利用(二次エネルギーへの加工あるいは消費)することは,自然エネルギーの恩恵が地域経済循環に組み込まれる形でもたらされることになり,地域経済循環が活発化することが期待される。産業や生活との関係を含む地域全体の観点から自然エネルギーの利用が進められれば,地域の産業の活性化や,新たな雇用の増加にもつながるものである。
その他,地域が主体となる自然エネルギー利用の取組により,エネルギーの地産地消が実現すれば,輸送によるエネルギーロスを抑える効果や,大規模災害発生時のリスクの低減,分散化などの効果も期待できる。
地域主体の取組により,自然エネルギーから潤沢に電気などのエネルギーが生み出され,地域において消費された後,その余のエネルギーは大都市圏などで利用されることとなれば,より広い範囲での自然エネルギー利用率向上にも寄与するものである。
よって,地域主体の取組を推進する観点から,固定価格買取制度(効果的な買取価格の設定,優先接続の実質的保障,系統接続費用の負担軽減),電力系統の広域化及び中立化(その実質的保障),規制緩和(各種自然エネルギーによる発電施設等の設置に関する各種の許認可にかかる要件の緩和と手続の簡素化)などの施策を進めていくことが重要であり,これらの点は福島県から国に対して求めていくべきである。
そして,地元住民及び地元企業に対する助成(事業資金を補助する制度)並びに支援(金銭的な補助以外で,事業を補助する制度。例えば許認可手続に関する指導)については,自治体が独自に施策を実施することが可能であるから,福島県及び県内各市町村は,特にこれらの地域主体の取組を対象とした助成及び支援制度を充実させるべきである。
また,エネルギーの供給は公益的意義を有するものであるから,福島県及び県内各市町村は,地域の状況に応じて自ら発電等の自然エネルギー事業に取り組み,あるいは出資することについても積極的に検討すべきである。
長野県富士見町では,2012年(平成24)年7月,町が全額を出資して太陽光発電事業会社を設立し,2013年(平成25年)11月から発電を開始しているし,福島県内においても,飯舘村が2013年(平成25年)2月,民間企業との共同出資で太陽光発電事業会社を設立し,2016年(平成28年)4月からの発電開始を目指している。
⑶ 社会的合意形成に向けた施策
今後,自然エネルギー利用の推進を更に飛躍的に加速させ,自然エネルギー利用と省エネルギーによる持続可能なエネルギー社会を実現するためには,自然エネルギーのみで,今後国内で必要とされるエネルギーの全てを賄うことが可能であるとの認識を普及させ,そのような社会の実現が可能であるとの認識を国民全体で共有していく必要がある。
また,持続可能なエネルギー社会を実現するためには,相当程度のコストが必要となることが明らかである。
少なくとも現時点では,自然エネルギーによる発電は化石燃料を使用した火力発電等と比較して発電原価が高額な状況にあるところ,そのコスト上昇分は固定価格買取制度により利用者の負担とされている状況にある。
更に,2014(平成26年)9月24日,九州電力が,電力の安定供給が困難となる見通しであるとして,再生可能エネルギー発電設備の接続に対して回答保留をすると発表し,北海道電力,東北電力,四国電力,沖縄電力が相次いで同様の発表をした事態(いわゆる「九電ショック」)から明らかなとおり,今後,出力が安定しない太陽光発電や風力等発電を有効に活用し,また,既存の送電網で十分にカバーされていない風力発電の適地を活用していくとすれば,蓄電池や揚水発電所等,不安定な発電量を調整する設備を整備するほか,送電網の強化(基幹系統の増強,地域間連携線の増強,既存の送配電網から自然エネルギー発電適地への新設)等の対策が必要となる。
これらの対策には多額のコストを要するものであり,必要なコストや得られる便益について検討したうえ,そのコストを誰がどのように負担していくか等につき社会的議論を進める必要がある。
その他,いわゆる炭素税制や自然エネルギー利用義務化などの法制化等の観点からも,社会的議論を進め,持続可能なエネルギー社会を実現するための社会的コンセンサスを高めていく必要がある。
そのためには,地域が主体となって取組を進めることにより各地域における住民の関心を高めていくことが有効であり,また,これまでは専ら理工系の専門家が中心となって自然エネルギーの研究を進めてきたのに対して,今後は社会科学系の専門家等が社会的合意形成の観点,経済政策的な観点,法制度の観点,事業収支の観点など,様々な観点から関与するなど,自然エネルギー事業に取り組む人材の裾野を大きく広げていくことが有効である。
また,自然エネルギー100%を実現するための取組は20年,30年といった長期間に及ばざるを得ないことから,とりわけ子ども(将来の世代)に対する啓発,教育活動を充実させることが必要不可欠である。
子ども(将来の世代)に対する教育機関である学校に自然エネルギー利用設備を設置することは,生徒が太陽光パネルやモニターなど自然エネルギー利用設備を間近に見てその効果を理解し,自然エネルギー利用の意識を持つことで,そのまま将来の世代への啓蒙につながりやすいものであり,また,その設備を利用するなどして体験活動を含むエネルギー教育カリキュラムを設けること等は更に有効であると考えられる。
しかも,わが国の学校への自然エネルギー利用設備導入のポテンシャルは大きいものである。環境省委託事業平成24年度「再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報整備」にかかる報告書によれば,学校(幼稚園,小学校・中学校・高校,大学,その他の学校)への太陽光発電設置の設備容量の導入ポテンシャルは,合計1,681万kWとされており,公共系等建築物全体の導入ポテンシャル(14,689万kW)の中では耕作放棄地,工場に次ぐ大きな割合(11.4%)を占める。
従って,福島県及び県内各市町村は,県内の学校への太陽光発電,太陽熱利用,地中熱利用など自然エネルギー設備を設置すること,また,その設備を利用した体験活動など,自然エネルギー利用への興味関心を喚起するような教育カリキュラムを設定すること等について,積極的に推進すべきである。

以 上

 

 

 

 

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