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福島第一原子力発電所事故による避難住民の円滑な帰還 へ向けた喫緊の支援に関する提言

はじめに

2011年(平成23年)3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故(以下,「原発事故」という。)は,福島県相双地区におけるそれまでの生活圏や経済圏を根こそぎ破壊した。

現在,原発事故から2年以上が経過し,2013年(平成25年)5月28日には相双地区を中心とした9市町村(大熊町・葛尾村・川内村・田村市・富岡町・楢葉町・双葉町・浪江町・南相馬市。以下,「相双地区9市町村」という。)に設定されていた全ての警戒区域が解除されるなど,原発事故により避難指示等が出された地域について区域の再編も大詰めを迎えている。

このような中で,川内村は,2012年(平成24年)1月31日,帰村宣言を発し,相双地区9市町村の先陣を切って帰村事業を行っている。しかし,村民の帰村は思うように進んでいないのが現状である。その大きな要因として放射線被ばくに対する村民の不安が拭えない点もあるが,帰村を妨げている要因はそれだけではない。

その他の大きな要因としては,生活のあらゆる場面における近隣自治体との共存関係が原発事故により完全に分断されたことが挙げられる。すなわち,相双地区内の町村は,就労,就学,医療,物流や日常の買い物,果ては冠婚葬祭に至るまで,近隣自治体との共存関係に基づき生活をしてきたのであるが,その共存関係が原発事故により分断された。特に,医療面での分断,とりわけ緊急医療体制への不安は村民の帰村につき,また,物流の分断は商工事業者の帰村につき,それぞれ大きな障害となっている。そして,このような,医療や日用品の購入といった生活面での基本的な機能に対する不安感こそが,住民の帰村そのものを妨げているといっても過言ではない。

加えて,このような問題は,住民の帰還に向けた取り組みが開始される他の自治体においても,今後,同様に生じることが予想されるものであり,早急な対策が講じられなければならない。

そこで,当会は,住民の円滑な帰還に向け,福島復興再生特別措置法に基づく喫緊の支援のあり方について,以下のとおり提言する。

提言の趣旨

1. 国が,相双地区内における基幹医療機関の確立並びに同医療機関へのドクターヘリの導入及びER(常時緊急患者を受入可能な医療体制)の拡充など,同地区における救急医療体制の充実のための施策を早急に講ずべきこと。

2. 国が,物流に要するコストを負担するなど,相双地区における正常な物流システムの確保のための施策を早急に講ずべきこと。

提言の理由

1. 原発事故に伴う生活基盤の喪失

東京電力福島第一原子力発電所(以下,「福島第一原発」という。)の立地地域を含む相双地区9市町村の全部又は一部では,福島第一原発事故に伴う避難指示やその後の警戒区域への指定により,住民が長期間にわたって故郷を追われた。

また,旧緊急時避難準備区域や計画的避難準備区域に指定された地域においても,多くの住民が福島県内外への避難を余儀なくされた。

これらの避難に伴い,警戒区域に指定された地域を中心として,住民は,その生活基盤を喪失することになった。

2. 原発事故以前の状況

福島第一原発事故以前は,双葉郡内の各町村においては,それぞれ隣接する市町村同士が,雇用,就学,物流,医療,日常の買物や冠婚葬祭に至るまで,相互に密接なつながりを有していた。例えば,川内村は,全村民約3000名の内,約500人が富岡町で就業し,村内の高校生の多くは富岡町の高等学校に通学していた。また,物流に関しては,ほぼその全てが常磐自動車道や国道6号線,JR常磐線を通じ,富岡町を介して行われていた。さらに,医療に関しては,富岡町の県立大野病院や同町を経由して双葉町の双葉厚生病院等に通院し,緊急医療体制もこれらの病院に依存している状態であった。

3. 原発事故による種々のコミュニティの分断

しかし,このような状況は,福島第一原発事故により正に一変した。南は首都圏やいわき市から,北は仙台市から,相双地区を結ぶ国道6号線や常磐自動車道,JR常磐線などの基幹交通網は寸断され,かかる交通網の存在を前提として構成されていた物流網も根本的に破壊された。

また,避難指示や警戒区域への指定等により,対象地域の住民が根こそぎ生活の基盤を喪失するに伴って,経済的・文化的なつながりや,医療の拠点も完全に破壊された。

原発事故による避難に伴って,家族の離散や親類・近隣住民等との離別という最小単位のコミュニティが崩壊したことは良く知られている。しかし,原発事故は,それだけにとどまらず,交通網や自治体の機能を破壊し,さらには,経済,文化,教育,医療などの生活のあらゆる場面において,各自治体間や自治体住民間にて構築してきたコミュニティやネットワークをも分断したのである。

4. 住民の帰還における現状

このように,相双地区における原発事故以前の地域コミュニティが崩壊している状況の中で,前述のとおり,川内村は2012年(平成24年)年1月31日に帰村宣言を発し,除染や生活インフラの整備を進め,企業誘致による雇用の場を確保するなど,いち早く村民の帰村に向けて種々の取組みを行い,基礎自治体として出来うる限りの努力を行ってきた。

しかし,村民の帰村は思うようには進まず,特に若年層の帰村へのためらいは大きい。10歳未満の帰村者は10%程度に過ぎず,高齢化率は原発事故前の約34%から実に約65%に跳ね上がっている。

上述のように,川内村は生活環境の除染をほぼ完了し,空間放射線量も年間1mSv未満と見込まれる地区が多くを占める。放射線による外部被ばくの問題だけを見れば,村民の多くが避難している福島県中通り地方よりも川内村の方が数値が低い状況になっている。

にもかかわらず,村民,特に若年層が帰村にためらいを感じているのは,放射線被ばくに対する不安だけでは説明できず,医療や買い物など日常の生活に対する不自由さがあるからに他ならないものと言える。買い物や医療の面で不自由なく暮らせる都市部との落差が,帰村の問題を複雑化しているのである。

5. 望まれる対策

(1)上記のような,川内村の帰村事業を通じて明らかになった問題点は,遠藤雄幸川内村長が常々「中山間地の過疎化の問題が原発事故を契機に一気に噴出した。時計の針が何十年も進んでしまった。」と述べている言葉に如実に表れている。そして,この点は,川内村だけの問題ではなく,程度の差こそあれ,相双地区9市町村が今後住民の帰還を進めていく場合には等しく生じる普遍的な問題を含んでいる。

(2)とすると,真に相双地区9市町村についての住民の帰還を目指すのであれば,放射性物質の除染やインフラの復旧などにより,原発事故前の環境にできるだけ近づけるだけでは不十分であることは明らかである。

放射性物質による汚染という負債を背負った地域について,原発事故によって一気に進んでしまった時計の針を元に戻すためには,①原発事故によって破壊された経済,文化,教育,医療といった生活環境のあらゆる場面におけるコミュニティやネットワークを再生すると共に,②原発事故前よりもより魅力的な地域に生まれ変われるだけの直接的な支援策が国により講じられることが必要である。

(3)この点,前記②については,新たな産業の創設や先進的な教育機関の開設,帰還した住民に対する直接的な経済的支援などが考えうるが,これらの課題については,より詳細な調査分析を要することから,当会も長期間にわたり,地域の実情を調査した上で,今後さらに,随時提言を行っていく予定である。

(4)他方,前記①の点については,川内村の実情などから,現時点において,喫緊の課題が浮き彫りになっており,とりわけ以下の2点について,その対策は早急に行われなければならない。

ア. 基幹医療機関の復旧及び緊急医療体制の拡充について

まず,相双地区9市町村の内,南相馬市を除く地域の医療体制,とりわけ,緊急医療体制については,これまで双葉郡内の基幹医療機関であった大熊町の福島県立大野病院(以下,「大野病院」という。)と双葉町にあるJA福島厚生連双葉厚生病院(以下,「双葉厚生病院」という。)が担ってきた。しかし,原発事故により警戒区域内に指定された両病院はいずれも閉鎖を余儀なくされた。

これら両病院は,大野病院が福島第一原発から4.2㎞,双葉厚生病院が同じく3.3㎞と近く,かつ,放射線量が極めて高いために,区域再編により帰還困難区域に指定された地域に立地する。そのため,両病院の復旧はほぼ不可能な状況にある。

他方で,帰還事業で先行する川内村には既に約1200人の村民が帰村しており,その約65%を高齢者が占める。現在,川内村では,村立の診療所を拡充し医療の確保に努めているが,救急医療体制は十分でなく,未だ救急患者が出た場合には,距離的に離れた福島県中通り地方の郡山市や平田村の医療機関に緊急搬送を行っている状況である。

かかる現状からすれば,双葉郡内における緊急医療体制の復旧は,正に喫緊の課題である。

そうすると,今後,住民の帰還がスムーズに行われるためには,社会一般の医療水準を満たすだけの医療体制が構築されることが必要となる。そして,それは,川内村のみならず,他の市町村における住民の帰還が今後進んでいくことも視野に入れた医療体制,具体的にはドクターヘリの導入による緊急医療体制の充実や,ER(常時緊急患者を受け入れる緊急医療体制)等を備えた医療機関の整備により,達成されるべきものである。

国は,避難解除等区域復興再生計画において,住民の帰還に合わせた診療所等の再開による一次医療の提供体制の確保を謳っているが,あくまでも住民の帰還に合わせた医療機関の診療再開の支援に止まっており不十分である。国は,そもそも,原子力政策の誤りにより地域住民の幸福追求権はおろか生存権の保障すら危ぶまれる状況を招いた責任を十分認識し,大野病院及び双葉厚生病院に代わる医療機関の新たな設置を含め,地域の基幹医療機関の確立のための施策を講じると共に,ドクターヘリやERの導入・拡充又は導入・拡充のための補助など,緊急医療体制の充実のための施策を講じるべきである。特に,先行して帰還事業を行っている川内村住民の安全のため,川内村内における緊急医療体制の確保を急がなければならない。

イ. 物流拠点及び物流網の再生について

原発事故発生以前においては,相双地区の物流は,常磐自動車道や国道6号線,あるいはJR常磐線に依存していた。

この点,交通網については,国道6号線については,一般車両の通行に開放する方向で検討が進められており,また,川内村といわき市を結ぶ国道399号線などの拡充が予定されるなど,原発事故前の状況に復するのは時間の問題となっている。

もっとも,交通網の復旧と物流網の復旧はイコールではない。即ち,物流システムにおいては,単発の輸送というものはなく,通常,複数の地域における複数の物流拠点を経由することによって成立する。

とりわけ,今回の原発事故によって住民の生活基盤や地域の経済的ネットワークが根本的に破壊された地域は,関連する物流拠点が完全にその機能を喪失している。例えば,川内村では,本件原発事故以前は,運送業者がいわき市から富岡町までの沿岸部の各物流拠点を経由し,その上で川内村へも荷卸しを行うという物流網が確保されていたが,原発事故後は,警戒区域内の物流拠点がその機能を喪失し物流が停止したことから,川内村内への物流もまた滞ってしまっている。

現在,仕入れる側の帰還住民は,自らが仕入れに出向く場合,例えば自家用車で片道約1時間30分をかけて郡山市まで出向き,そこで自家用車に荷物を積み替えて仕入れる必要があり,多大な肉体的,時間的及び経済的コストが増加する原因となっている。

また,運送業者にとっても,川内村まで物品を運送する場合,運送する物品量と途中の荷卸し地点数のいずれもが少ないため,採算が取れないままでの運送を余儀なくされている。

さらに,一般の帰還住民が日用品を購入する場合ですら,川内村内のコンビニエンスストアや小売店にない品物を購入するには,周辺の町村まで自家用車やバスを利用して買い出しに出かけなければならないという大きな負担を強いられているのである。

これらの問題は,帰還先で日常生活を送る住民にとっては一刻も早く解決されなければならない問題であり,喫緊の課題として,まずは流通の拠点である郡山市やいわき市などから川内村への物流網が整備されなければならない。

そして,帰還事業を進める他自治体にも同様の問題が生じることが予想されることから,国は,帰還を目指す自治体及び住民の生活を阻害しないために,現時点から物流網の復旧を進め,同じ問題で帰還が阻害されないよう努めるべきである。

仮にこのような体制が十分に構築されないままでは,前述したよう に,都市部との生活面の利便性における大きな落差を生じ,これによって村民,特に若年層の帰村が阻害されることとなる。つまり,物流網が確保されないため住民にとって日常の買物の利便性が失われていることから住民が帰還せず,その結果,経済的に採算が取れないゆえに物流網が復旧できないという悪循環に陥ることになるのである。

国は,住民の帰還,とりわけ若年層の帰還において,日常の買物という局面における生活の利便性が重要であることを念頭に置き,国の原子力政策の誤りによって物流網が破壊されている状況を速やかに回復すべく,避難解除等区域復興再生計画でいう「地域コミュニティを支える多様な生業の再生のための措置」として,旧警戒区域内外からの物流を確保するため,正常な物流システムが復旧するまで,物流に要するコストを負担するなどの施策を講じるべきである。

(6)以上から,当会は,冒頭のとおり,提言を行う。

以上

2013年(平成25年)07月22日
福島県弁護士会
会長 小池 達哉

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