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原発事故子ども・被災者支援法の支援対象地域に関する会長声明

1. 2011年(平成23年)3月11日、日本の近代史上まれにみる大規模な公害被害を惹起した東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、「福島原発事故」という)が発生し、これにより、1年半が経過してもなお、約16万人もの福島県民が避難生活を強いられるとともに、避難の有無にかかわらず福島県内に留まった極めて多数の福島県民が低線量被ばくによる健康被害や謂れなき差別への不安に怯えるなどしながら、困難な生活を余儀なくされ、いつ終わるとも知れない放射能との闘いに直面している。

かかる苦境に鑑み、いわゆる議員立法により、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(以下、「支援法」という)が、2012年(平成24年)6月21日に成立した。

支援法には、東日本大震災直後に発生した福島原発事故により被害を受けた住民に対し、その一人一人が、「支援対象地域に居住する」、「他の地域に移動する」、「移動前の地域に帰還する」のいずれを選択した場合であっても適切に支援していくという基本理念のもと、福島県民が切望してやまない除染や医療支援などについて盛り込まれており、今なお原発事故の影響に苦しむ福島県民にとって一筋の光明というべきものである。

もっとも、支援法はあくまで理念法にすぎず、これに基づく具体的な施策の内容が充実しなければ、絵に描いた餅となりかねないものである。

そして、子どもをはじめとする福島原発事故の被害者である福島県民は、福島原発事故前の福島県に戻ることを強く願い、その環境と生活の完全な回復を求めているものであり、これがなされて初めて、真に福島県が復興を果たしたものと評価されるべきであることから、支援法に基づく具体的な施策による支援は必要不可欠なものというべきである。

2. ところで、支援法は、支援対象地域を定めた上で(支援法第5条第2項)、支援対象地域における生活、支援対象地域からの避難者、支援対象地域への帰還等への支援に関する施策等を国が講ずることを求めており、支援対象地域に指定されるか否かによって、生活と環境の完全な回復のために必要な支援を受けられるか否かが決まると言っても過言ではない。

この点、支援法では、支援対象地域の指定にあたっては一定の放射線量の計測が基準として掲げられているが(支援法第1条)、仮に年間1ミリシーベルト以上を基準とした場合には、基準時の取り方によっては、会津地方など、福島県内であってもこの基準に満たない地域が存在することとなる。

しかし、放射線量が比較的低い地域であっても、「福島県」であるというだけで、いわゆる風評被害を受けてきたという社会的事実が現に存在し、残念ながら「福島県民」であるというだけで謂れなき差別を受ける事例も未だに後を絶たない。すべての県民がこうした被害から解放されることなくして、福島県における生活と環境の完全回復はありえない。

また、福島原発事故以来、今日まで、避難等対象区域の指定やその再編、自主的避難等対象区域の住民に対する慰謝料に関する中間指針追補の策定など、さまざまな場面において、道ひとつ隔てた隣人同士の取り扱いに雲泥の差が生じ、福島県民が分断されるという悲痛な出来事が繰り返されてきたことを忘れてはならない。支援対象地域の指定にあたり、放射線量の多寡にこだわって厳格な線引きをすることは、さらなる県民の分断を招き、地域全体の安定した生活と環境の回復を妨げるものにほかならないものである。

前述のとおり、支援法は、支援対象地域の指定につき放射線量を基準として掲げているものであるが、法律の性質上、支援対象地域の指定基準を拡大することを禁ずるものではないと解されるものであることから、立法目的を実現するためには、放射線量のみに形式的にこだわるのではなく、これまで述べたような、その地域における生活と環境の完全な回復という視点から柔軟な取り扱いがなされるべきである。

したがって、支援法における支援対象地域の指定にあたっては、少なくとも福島県についてはその全域を支援対象地域として指定されるべきである。

また、放射線量の多寡にこだわって、支援対象地域の範囲が、短期間のうちにしばしば変更・縮小されるようなことがあれば、住民の立場は著しく安定を欠き、到底、安心して今後の生活設計を選択することなどできなくなってしまう。また、放射線量の数値が一定程度低下したとしても、ただちに支援の必要性が失われるものでもない。

したがって、抜本的な除染が進み、生活と環境の完全な回復が実現されるまで、長期的かつ継続的な支援が実施されるべきである。

3. 以上の考えに基づき、当会は、支援法における支援対象地域の指定にあたっては、少なくとも福島県についてはその全域を支援対象地域として指定して、生活と環境の完全な回復が実現されるまで、長期的かつ継続的な支援を実施することを国に対して求めるものである。

2012年(平成24年)11月20日
福島県弁護士会
会長 本田 哲夫

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