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原子力損害賠償紛争解決センターの和解案に対する東京電力株式会社の回答に関する会長声明

本年1月26日、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)に対する和解仲介申立第1号事件について、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)が、センター仲介委員の提示した和解案に対する回答を行った。

この東京電力の回答は、仲介委員の提示した和解案に対し、中間指針で目安として示された金額を超える慰謝料の増額及び仮払補償金を本件和解時に精算しないとする点を拒絶し、また、センターが財物損害の内払いの趣旨で提示した賠償額につき清算条項の明記を求めるなど、当該事件における和解案の重要部分を拒絶したものであり、このことは、センターを利用した和解仲介手続の存在意義すら没却させかねない、重大な問題を含むものである。

東京電力は、原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施を目的とする政府資金援助を受ける条件として、昨年10月28日、原子力損害賠償支援機構と共同で特別事業計画(以下、「計画」という)を申請し、11月4日政府はこれを認定した。これにより東京電力は、計画に盛り込まれた事項を遵守し、確実に実施する義務を負うこととなった。

計画策定の過程において、枝野経済産業大臣は、10月24日、「できるだけ訴訟にならないなかで、被害者が納得できる十分な賠償に向けた姿勢を東京電力にも持ってもらいたい」との認識を示して和解案の尊重を求め、東京電力は、計画に盛り込まれた「5つのお約束」の中で、「被害者の方々の立場に立ち、紛争処理の迅速化に積極的に貢献するため、原子力損害賠償紛争審査会において提示される和解案については、東電として、これを尊重」することを謳っている。

それにもかかわらず、今回、東京電力がセンターの提示した和解案につきその重要な点を拒絶したことは、政府及び国民に対する約束を破るものであり、また、かかる対応が繰り返されるようなことがあれば、被害者の和解仲介手続に対する期待を損ない、ひいては迅速かつ適切な損害賠償の実現を妨げることになりかねない。

東京電力は、センターの提示した和解案のうち慰謝料について、原子力損害賠償紛争審査会が定めた中間指針の基準を超えていることを理由にその支払を拒絶しているが、中間指針は、一般的に避難生活に伴うと考えられる慰謝料の目安を示したにすぎず、「その他の本件事故による精神的苦痛についても、個別の事情によっては賠償の対象と認められ得る」と明言しており、目安を超える慰謝料の可能性を否定している訳ではない。そもそも、中間指針自らが「本件事故による原子力損害の当面の全体像を示すものである。この中間指針で示した損害の範囲に関する考え方が、今後、被害者と東京電力株式会社との間における円滑な話し合いと合意形成に寄与することが望まれるとともに、中間指針に明記されない個別の損害が賠償されないということのないよう留意されることが必要である。東京電力株式会社に対しては、中間指針で明記された損害についてはもちろん、明記されなかった原子力損害も含め、多数の被害者への賠償が可能となるような体制を早急に整えた上で、迅速、公平かつ適正な賠償を行うことを期待する。」と明言しているのであって、東京電力の対応は、まさに中間指針の趣旨に反するものである。

当会としては、このような東京電力の対応により、迅速な損害賠償の実現が妨げられることを強く危惧するものであり、東京電力に対し、仲介委員の提示した和解案を尊重することを求めるとともに、国に対し、東京電力への指導、監督を徹底し、仲介委員の和解案に片面的拘束力を付与することも含め、迅速に被害者が救済されるための施策を早急に検討することを求めるものである。

2012年(平成24年)02月03日
福島県弁護士会
会長 菅野 昭弘

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